
静かに動く海外ファンドの真意を探る(大量保有報告書レビュー)
はじめに
2025年3月28日、英国ロンドンを拠点とする投資ファンド、ブルックランズ・ファンド・マネジメント・リミテッド(BROOKLANDS FUND MANAGEMENT LIMITED)が、電子部品メーカーである株式会社オリジン(証券コード:6513)の株式を5.11%取得したことを公表した。
報告義務発生日は2024年10月16日であり、静かに進められた株式取得の全容が今回の大量保有報告書により明らかとなった。
取得目的は「純投資」とされており、明確な経営関与の意図は示されていないが、海外アクティビストの動きが活発化する中で、その戦略的意図には注目が集まっている。
オリジンとはどのような企業か?
株式会社オリジンは、センサーモジュール、電子制御ユニット、ソフトウェアソリューションなどを開発・製造するエレクトロニクス企業であり、医療・計測・車載分野などのBtoB領域でニッチながらも高い技術力を発揮している。
ここ数年は、業績こそ堅調に推移しているが、株式市場での評価は伸び悩んでおり、PBRは1倍を大きく下回る“純資産割れ”水準が続いている。
加えて、資産の大半が現預金や投資有価証券など比較的流動性の高い内容で構成されていることから、バリュー株としての注目度は高まっていた。
取得の実態と特徴
ブルックランズの取得内容は以下の通り
- 保有株数:342,600株
- 保有比率:5.11%
- 発行済株式数:6,699,986株(2024年10月16日現在)
- 取得方法:市場内での連続取得(10月10日に12,200株、10月16日に8,900株)
- 取得資金:4.2億円強(すべて自己資金)
自己資金のみでの取得、かつ市場内での分散的買い付けという手法は、短期的な株価操作ではなく、長期保有を前提とした「静かな買い」を示唆している。
ブルックランズの戦略的視点とは何か?
英国に拠点を置くブルックランズは、近年アジア・日本市場へのアプローチを強化している中小型株特化型のファンドである。
いわゆる典型的な「もの言わぬ投資家」でありながら、過去には取得後に企業側へガバナンス改善や資本効率の見直しを促す“ソフトアクティビズム”に近いスタンスを取ることもある。
特に今回のように、株価水準がPBR0.3倍前後にとどまる企業への出資は、以下のような観点から評価されている可能性がある.
- 自己資本が厚く財務健全性が高い
- 経営陣による株主還元姿勢が限定的
- 企業価値の評価が市場平均と比べて大きく乖離している
これらの条件が揃ったとき、海外ファンドは「時間をかけて再評価される資産」を“仕込む”傾向にある。今回のオリジン株取得も、まさにその文脈に乗る動きだろう。
今後の焦点と注視ポイント
今後数ヶ月の注目点として、以下の視点が挙げられる:
- ブルックランズがさらに買い増しを進めるか(10%超の報告義務が次の節目)
- オリジン側が株主提案やガバナンス対応を強化する兆しを見せるか
- 他機関投資家の動向──「呼応する保有報告」が出てくるか
現時点でブルックランズは「純投資」として経営介入の意思を否定しているが、過去のケースでは保有比率の増加とともに、配当政策や自己株取得の要請へと発展する事例もある。
論評社としての視点
中小型株の“眠れる資産”に対して、欧州系ファンドが仕掛けるという構図は、2020年代の日本市場で徐々に常態化している。オリジンのような、技術はあるがPRが弱く、資本効率も今一歩という企業は、まさにその格好のターゲットだ。
ブルックランズの動きが、単なるポジショントレードに終わるのか、あるいは企業価値を引き出す“触媒”になるのか。静かに始まった5%ルールの影には、企業の運命を変えるきっかけが潜んでいる。
2025年、日本企業の株主構造と経営のあり方に、海外資本がどう作用していくのか──オリジンとブルックランズの関係は、その先例となりうる。