公共依存からの脱却と“スマート・モノづくり”戦略の現在地 (第77期 有価証券報告書レビュー|2024年12月期)
はじめに
2025年3月31日、京都発の老舗メーカー、星和電機株式会社(証券コード:6748)は第77期(2024年1月~12月)の有価証券報告書を提出した。
防爆照明や道路情報システムなどを柱とする同社は、依然として公共事業比率の高いポートフォリオを持ちながらも、事業構造の変革と新規事業創出を進めており、「スマート&サステナブル」をテーマに次なる成長を模索している。
今回は、業績・戦略・財務・リスクの視点から、星和電機の“今”を論評的に掘り下げていく。
1. 業績ハイライト──堅調な受注と収益性改善が寄与
- 売上高:252億円(前年比+6.1%)
- 営業利益:17.7億円(前年比+70.2%)
- 経常利益:19.2億円(前年比+65.8%)
- 純利益:13.5億円(前年比+70.1%)
- ROE:8.2%(前年:5.3%)
- 営業利益率:7.0%(前年:4.4%)
照明・情報機器分野を中心に公共・民間双方での受注が増加。特に道路照明・トンネル照明などのインフラ領域で収益性が改善し、前年を大きく上回る利益水準を確保。
一方、**コンポーネント事業(EMC対策部品等)**は、在庫調整や需要減の影響で減益。
受注残高は前年比+5.8%の158億円と、来期以降へのポジティブな引き継ぎを示唆している。
2. セグメント分析と展望
● 情報機器事業(売上:96億円/セグメント利益:13.6億円)
- 高速道路向け情報板が好調
- 新たなリモート監視・IoT対応型製品が成長中
- 通信系ソリューションとの融合領域にも挑戦中
● 照明機器事業(売上:95億円/セグメント利益:18.2億円)
- 産業・公共照明ともに好調。LED化需要継続。
- 防爆LED照明のラインアップ拡充、捕虫器などニッチ製品も貢献
- トンネル照明などで自治体からの更新需要あり
● コンポーネント事業(売上:56億円/セグメント利益:3.5億円)
- EMC製品は顧客の在庫調整により減速
- エアコン用配管保護材は堅調
- 電波暗室サービスによる差別化を強化中
3. 財務・キャッシュフロー分析
星和電機は財務戦略においても安定性を維持しており、2024年度のキャッシュ・フロー状況は以下の通り:
- 営業活動によるキャッシュ・フロー:+9.8億円(前年+5.3億円)
- 投資活動によるキャッシュ・フロー:▲2.0億円(前年▲3.6億円)
- 財務活動によるキャッシュ・フロー:+0.9億円(前年▲9.8億円)
- 期末現金残高:36億円(前年末比+10.2億円)
営業キャッシュ・フローが着実に積み上がる中で、自己資金による設備投資と、長期借入による財務活動も実施。財務体質の強化と成長投資の両立が確認できる。
4. 中期経営戦略──スマート技術×新規事業開発
中期経営戦略(2024~2026)では「Seiwa Way」に基づいた持続可能な組織と社会の実現を掲げており、以下の3軸を中心に取り組みを進行中。
- モノづくり改革:製販一体のチームワークと短納期・低コストの追求
- 市場創出:道路・インフラに留まらず、医療、脱炭素、DXニーズを見据えた市場拡張
- 技術革新:IoT・AI・リモート監視・可視光通信など、スマート技術を搭載した新製品群
特筆すべきは新規事業本部の設立と、空中ディスプレイ技術の研究成果など、ニッチ領域での技術シーズからの事業化を進めている点だ。
5. サステナビリティと人的資本の現在地
- ISO14001を全拠点で取得、電力4%削減目標に対して実績は2.6%減
- 女性管理職の登用実績は依然ゼロながら、新卒採用で女性比率35%(目標30%)を達成
- 「SEIWA SDGs」の4つの柱(モノづくり、人・組織、環境、社会貢献)に基づき活動中
- SDGs×技術による社会課題解決型製品(捕虫LED、防災照明等)の開発が顕著
6. 投資家としての視点──脱・公共依存と資本効率向上への挑戦
星和電機の最大の特徴は、長らく公共事業依存度の高さ(直近で49%)が続いてきたことにある。これは安定収益を生む反面、政策変動や予算次第で業績の振れ幅が大きい。
しかし今期、民需の取り込みや新規領域(スマート防爆・EMCラボ・IoT対応製品など)による自立的な成長戦略への転換が始まっている。
- **ROE:8.2%(前年5.3%→ +2.9pt)**は明確な資本効率の改善
- **自己資本比率:56.8%**と財務安定性も高水準
- **配当性向:19.0%、PBR:約0.5倍(株価水準)**と、株主還元余地も高い
PER5倍台、PBR0.5倍という指標からは、依然として「バリュー株」に分類されるが、中期的には「脱・官需依存+スマート製品群の浸透」による再評価の可能性がある。
7. 論評社としての視点
星和電機の強みは、“実直なモノづくり”と“ニッチ・トップ戦略”にある。創業以来培ってきた防爆技術・電磁ノイズ対策・道路照明といった領域での蓄積を活かしつつ、それをスマート社会のニーズにアップデートしている点に注目したい。
他方で、ガバナンスや女性活躍などソフト面での改善余地も大きく、真のサステナブル企業へと進化できるかは、今後2~3年の取り組みにかかっている。
技術資産をどう社会価値へ変換していくか──。 星和電機の“次の姿”を見届ける面白さが、いま市場に静かに投げかけられている。