デイトナ、二輪パーツの雄が見据える次の10年

グローバル化と新規事業で挑む「100年企業」への道筋 (第53期 有価証券報告書レビュー|2024年12月期)


はじめに

2025年3月31日、株式会社デイトナ(証券コード:7228)は第53期(2024年1月〜12月)の有価証券報告書を提出した。

バイク用パーツの総合メーカーとして知られる同社は、国内二輪車市場の縮小という構造的課題に直面しながらも、インドネシア・フィリピンなどアジア圏での拡大、新規事業やサステナビリティ戦略を着実に打ち出している。

今期も増収増益を達成し、財務体質は一段と強化された。以下、論評社の観点でその戦略と実績を深掘りしていく。


1. 業績ハイライト──堅調な事業拡大と財務健全性の両立

  • 売上高:145億78百万円(前年比+4.4%)
  • 営業利益:17億14百万円(前年比+1.0%)
  • 経常利益:17億43百万円(前年比▲0.3%)
  • 純利益:12億08百万円(前年比+2.3%)
  • ROE:15.0%(前年16.6%)
  • 自己資本比率:78.0%(前年73.2%)

事業利益の伸びはインドネシアを中心としたアジア卸売事業の成長(+66.4%)が牽引。一方で国内卸売は減益(▲14.3%)となったものの、全体としては堅調な収益構造を維持した。

キャッシュ・フロー面でも営業CFは+14.2億円、投資CF▲2.5億円、財務CF▲5.7億円と、内部留保と再投資を両立する健全な資金循環を実現している。


2. セグメント別動向と注目ポイント

● 国内卸売事業(売上:104億円/利益:10.8億円)

  • ライディングウェアや補修消耗品が好調
  • ドラレコ・インカムは需要一巡でやや減退
  • 小型発電機など新商材も好調に推移

● アジア卸売事業(売上:16.8億円/利益:4.1億円)

  • インドネシアでのブランド浸透と販路拡大が寄与
  • フィリピンでは今期営業開始。来期から収益貢献へ

● 小売事業(売上:22.7億円/利益:1.2億円)

  • 来店客数減少もPIT作業増加で利益改善

● その他事業(売上:3.1億円/利益:0.5億円)

  • 太陽光発電事業、リユース事業ともに黒字転換

3. 戦略分析──新中計と「100年企業」への布石

デイトナの掲げる新たな中期経営計画(2025〜2027年)は、単なる事業拡大ではなく、「100年企業」を見据えた持続的成長戦略の布石となっている。

以下の5本柱は、同社の経営哲学と戦略的意志を明確に示している。

① 国内市場でのブランド強化

  • ユーザー支持率No.1を目指す明確なブランドポジションを確立
  • SNSや動画、ユーザーコミュニティサイトを活用したデジタル接点の強化
  • 商品面ではリニューアルとニッチ需要対応の両輪で顧客接点を維持

② 海外展開の拡充

  • インドネシア拠点の物流強化と販売拡大を実現
  • フィリピン子会社は営業開始し、2025年以降の収益貢献を視野に
  • ASEANエリアでの販路展開とブランド価値浸透を中期テーマに据える

③ 新規事業の創出

  • 特機事業・リユース事業を中心に、非二輪売上25%を目指すポートフォリオ形成
  • M&Aも含めた積極的な事業探索を継続
  • 「バイクに限らない“ライフスタイル提案型企業”」としての脱皮

④ ESG・サステナビリティ経営の強化

  • 再エネ100%を維持し、2032年には「本社電力オフグリッド」化を予定
  • SDGsとの整合を意識した製品・サービス展開(例:水素生成技術、観光協定)
  • 社内ガバナンスやリスクマネジメントも一体で強化

⑤ ガバナンス・人材開発の進化

  • 役員報酬制度の見直しと報酬委員会による透明性の向上
  • 海外短期研修・FA制度など人材の柔軟な活用と育成体制を構築

これらの取り組みは、「二輪専業からの脱却」と「持続可能な組織の実現」という二つの軸を巧みに交差させながら、デイトナの次の10年を支える土台を築こうとしている。


4. 財務・キャッシュフロー分析

  • 営業CF:+14.2億円(前年:+12.2億円)
  • 投資CF:▲2.5億円(前年:▲1.6億円)
  • 財務CF:▲5.7億円(前年:▲4.8億円)
  • 現預金残高:21億円(前年比+6億円)

内部留保を確保しながら、設備投資と借入返済、配当(2.8億円)を実施。借入残高は10.4億円に縮小し、インタレストカバレッジレシオ181.5倍、CF対有利子負債比率0.7年という健全性が際立つ。


5. サステナビリティと人的資本

  • 再エネ100%(非化石証書含む)を継続達成
  • 「本社電力オフグリッド」構想を2032年目標に掲げる
  • ESG重点テーマ:環境/多様性/地域貢献/透明性
  • 人材開発ではイノベーション研修、グローバル短期研修制度などを運用

6. 投資家としての視点──“ニッチ・トップ”戦略の深化と割安感

バイク人口の減少とコロナ特需の剥落により、市場全体の成長性には不安もあるが、デイトナはその中で「ブランド力」「商品力」「ESG基盤」を強化しており、自己資本比率78%・ROE15%という財務指標は中小型銘柄として魅力的。

  • PER:7.1倍(東証平均より割安)
  • PBR:1.01倍(純資産は着実に増加)
  • 配当性向:37.9%(還元意識も強い)

浮動株比率の低さやIR発信力の弱さから市場での注目度はまだ限定的だが、着実に評価のフェーズに入りつつある。


7. 論評社としての視点

デイトナはまさに「ニッチ・トップ」の戦略を地で行く企業である。特に、

  • 二輪車文化を“成熟市場”として捉え直しながらも、
  • 新規商材、海外、脱炭素という拡張軸を明確に打ち出している。

今後は、“ライダー向け”から“モビリティライフの共創者”へというビジョンが描けるかが、評価のカギを握るだろう。

100年企業への変革はすでに始まっている──その一歩一歩が、確実に地に足をつけた軌跡となっている。

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