SBI証券、パレモHD株を6.86%取得

貸株の裏側”に潜むマーケットインパクトとは (大量保有報告書レビュー|2025年4月4日提出)


はじめに

2025年4月4日、株式会社SBI証券は、パレモ・ホールディングス株式会社(証券コード:2778)に関する大量保有報告書(変更報告書)を関東財務局に提出した。

報告によれば、保有割合は6.86%に達し、発行済株式総数12,051,384株に対し827,021株を保有する内容となっている。

形式上は「証券業務における商品在庫」という目的が示されており、いわゆる“純投資”とは一線を画す形だが、その裏側に潜む貸借取引の構造、および中小型株における流動性と需給のゆがみが市場に与える影響は決して小さくない。


1. 概要と保有状況の内訳

  • 保有株数:827,021株
  • 保有割合:6.86%(発行済株式数12,051,384株に対する比率)
  • 保有目的:証券業務における商品在庫(貸借業務関連)
  • 報告義務発生日:2025年3月31日
  • 提出日:2025年4月4日

パレモ・ホールディングス株式会社の企業概要

  • 本社所在地:岐阜県本巣市
  • 設立:1952年(旧社名:パレモ株式会社)
  • 上場市場:東京証券取引所スタンダード市場/名古屋証券取引所メイン市場
  • 事業内容:婦人服・雑貨等を扱う小売業。「パレモ」「シャンブル」などの店舗ブランドを展開し、全国200店舗超を運営。

パレモHDは、地方発の中堅アパレルチェーンとして、堅実なオペレーションと地方密着型の戦略を展開する企業である。

とはいえ、近年は経営の構造改革や店舗リストラ、EC転換への対応など、外部環境への適応が求められるフェーズに差し掛かっている。


2. “貸し手”と“借り手”──見えざる取引関係

本件の大量保有報告書には、SBI証券による2件の貸借契約が明記されている。

① 借株契約

  • 相手先:SBI証券の貸株サービスを利用する個人投資家等
  • 対象株数:827,000株

→ 実質的に全保有株の大部分を、社外の投資家から借り受けている状態。

これは、いわば名義上の保有であり、フロー取引の柔軟性を高めるためのポジションだ。

② 貸株契約

  • 相手先:JPモルガン証券株式会社
  • 対象株数:1,400株

→ 大量ではないが、機関投資家への再貸出の存在が確認されており、背後にいる投資主体の動向に注目が集まる。

この構造の意味するもの

SBI証券は、「借りた株式」を「別の機関投資家に貸す」ことで、短期的なマーケット・メイキングや清算・ヘッジ業務に活用していると見られる。

このようなフロー取引の中間地点としての“商品在庫”は、単なる名義ではなく、市場需給の流れを形成する拠点となる。


3. 投資家視点での評価──“純投資ではない”が無視できない理由

本件を「SBI証券の自己在庫」であると片付けるのは簡単だが、投資家にとって以下の3点は無視できないシグナルとなる:

① 貸株先の性質が市場のセンチメントを左右

JPモルガン証券が空売り系戦略に使っているのか、マーケット・ニュートラル戦略に使っているのか──それによって、短期的な株価形成メカニズムが大きく左右される。

② 流動性の少ない銘柄における需給の脆さ

スタンダード市場、かつ店舗型小売業という“値動きの地味さ”が特徴の銘柄において、6%を超える在庫保有は、実質的な価格形成の支配力を意味する。

③ 現物需給に影響しうる「仮需」の出現

借株・貸株は表向きの保有とは異なるが、実需と見做されるケースもあるため、他のアクティブファンドの売買シグナルに影響を与える可能性がある。


4. パレモHDの現在地と評価軸の転換

パレモHDは近年、構造改革を加速させている。

  • 店舗のスクラップ&ビルド
  • EC対応(ただし他社に比べ立ち遅れ感あり)
  • 賃料高騰によるコスト圧迫

業績としては黒字回復基調を維持しているものの、トップラインの成長には依然課題を残している。

PBRはおよそ0.6倍前後で推移し、株価は純資産価値以下にとどまるなど、「見直し余地」の高い銘柄としてバリュー投資家の注目対象となっている。

このような地合いにおいて、外部からの資本圧力は、企業価値の再評価や資本政策の見直しにつながる可能性を秘めている。


論評社としての視点

今回のSBI証券の動きは、「投資」ではなく「在庫」とされている。だが、重要なのはその名義保有の内実と、それによって可視化されたマーケットプレイヤーの存在だ。

JPモルガン証券という世界的機関投資家の登場は、敵対的アクションを意味するものではないにせよ、パレモHDという銘柄が「無風の安定銘柄」から「戦略的対象銘柄」へと評価軸を移しつつあることを示唆している。

“商品在庫”という言葉の奥にあるのは、証券会社がマーケットと静かに対話する手法の一つである。 この対話が、パレモHDの企業価値にどのような回路を開くのか──。 その答えが示されるのは、これからの市場の中である。

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