
はじめに
2025年3月31日、monoAI technology株式会社(証券コード:5240)は第12期(2024年1月〜12月)の有価証券報告書を提出した。
オンラインゲーム開発から派生した通信技術・AI技術を核に、XR(クロスリアリティ)領域へ展開する同社は、仮想空間プラットフォーム「XR CLOUD」を中核にメタバースサービスを展開し、独自のポジションを築いてきた。
本記事では、同社の事業構造、成長戦略、リスク管理、財務状況までを一気通貫で分析し、投資家視点での論評を加える。
1. 業績サマリー──売上は増収、だが赤字は拡大
- 売上高:14.3億円(前年比+14.8%)
- 営業損失:2.8億円(前年:1.7億円の損失)
- 経常損失:2.8億円(前年:1.6億円の損失)
- 純損失:5.9億円(前年:2.0億円の損失)
- 自己資本比率:83.2%(前年:77.0%)
増収の原動力は「XR周辺サービス」(前年比+53.3%)や「メタバースサービス」(+19.0%)。一方で販管費の増加(+22.7%)と減損損失(2.9億円)が大きく響き、最終利益は赤字幅が拡大。
キャッシュ・フローも営業CFは▲4.8億円と厳しく、2期連続で営業損失+営業CFマイナスという状況。
ただし、財務CFで+9.1億円を確保し、期末現金残高は12.7億円と健全性は維持されている。
2. 財務・キャッシュフロー分析
- 営業CF:▲4.8億円(前年:▲1.8億円)
- 投資CF:▲0.7億円(前年:▲2.9億円)
- 財務CF:+9.1億円(前年:▲0.02億円)
- 現預金残高:12.7億円(+3.6億円増)
資金調達はDNPとの第三者割当増資が寄与(資本+資本剰余金:各+5.0億円)。営業損失・CFマイナスが続く中、資金調達によってキャッシュフローのバランスを維持した構造となっている。
なお、2024年末時点の有利子負債はゼロ。自己資本比率は83.2%と非常に健全であり、流動比率も681.7%と高い。
3.主力事業と成長エンジン
XR CLOUDとは?
「XR CLOUD」は、数万人同時接続を可能とする仮想空間プラットフォームであり、次の特長を持つ。
- インストール不要、ブラウザベース
- 高品質描画と安定接続(クラウドレンダリング)
- 柔軟なOEM提供、1,000人規模イベント対応
この技術をもとに、以下3つのサービスを展開:
① メタバースサービス(売上構成比:約54%)
カスタマイズ型仮想空間・イベント構築(OEM対応)
- 顧客:企業・自治体(例:DNP・三井不動産など)
- 利用実績:ラーニングプラットフォーム、音楽フェス、ショッピングモール等
② XRイベントサービス(同12%)
簡易型イベント開催パッケージ
- 顧客:中小企業、大学など
- イベント実施数:年116件(前年比+16%)
③ XR周辺サービス(同34%)
AR・AIソリューション、QA事業、ドローン・ロボ制御開発
- 子会社:モリカトロン(AI対話/QA)、ロボアプリケーションズ(制御系)
今期は「XR周辺サービス」が急拡大し、XR事業の多角化が進んだことが読み取れる。
4. 中期成長戦略──“XR×AI”による社会的価値の実装
monoAIは5つの中核戦略を掲げている:
① XR CLOUDのパッケージ化・機能強化
- イベントテンプレート化により低コスト/短納期化
- 不登校支援・メタバース役所など、業界特化パッケージを拡充
② AI連携によるXR拡張
- AIバーチャルヒューマン、AIによる空間自動生成、ローカルLLMとの統合
- AR/AI組合せによる“リアルビジネスで使えるメタバース”を提案
③ 戦略的アライアンスの推進
- 大日本印刷(DNP)との資本業務提携を締結(共同開発・販売)
- オープンメタバースネットワーク(業界連合)参加による市場形成
④ R&Dの加速
- Vision Pro対応、3D Gaussian Splatting、クラウドゲーミング環境の刷新
⑤ 収益構造の改善
- KPIベースの利益管理、AIによる業務効率化、外注から内製化へのシフト
これらの施策は、XR市場黎明期でのプラットフォーマーとしての地位確立と、技術主導型企業としての体質強化を同時に進める構造を持つ。
5. サステナビリティと人的資本経営
- 採用では中途/外国籍含む多様性重視
- リモート/裁量労働を導入し、柔軟な働き方を推進
- 公正な評価と教育制度を整備(インセンティブ制度あり)
- 管理職の女性比率などの定量目標は未設定ながら、今後整備予定
また、「XR×地域共創」を軸に、地方自治体向けソリューションや教育・福祉用途への応用も進めており、“仮想空間=社会インフラ”としての側面が明確化しつつある。
6. 投資家としての視点──“赤字の中の希望”をどう見るか?
現状
- 2期連続の営業赤字/純損失/営業CFマイナス
- 収益化の難しさと、投資フェーズにあることが明白
ポジティブ評価
- 自己資本比率83.2%、無借金経営、資金繰りには問題なし
- 売上は過去最高、販管費増を成長投資と見なせるか
- DNPとの提携による“信用の補完”と共同事業の将来性
投資判断の論点
- 「XR×AI×自治体・教育市場」という構造は、中長期的に社会的需要が大きい可能性がある
- 現時点では、利益成長よりも事業ポジション確立にかける“テーマ株”的要素が強い
7. 論評社としての視点
monoAI technologyの現在地は、まさに「次世代インフラ構想の社会実装期」にある。仮想空間を「体験」ではなく「生活・仕事の場」として社会と結びつけるという構想の中で、同社はAI・通信・インターフェースの3技術を統合しながら、メタバースという概念の“再定義”を試みている。
現時点では財務的な成果は限定的だが、DNPや教育分野など公共性の高いパートナーと組むことにより、“社会課題解決型スタートアップ”としての評価軸が必要だ。
単なるメタバース開発会社ではなく、次世代社会の共創企業としての視座に立つことが、投資家の正しい評価姿勢であろう。