香港の投資持株会社が創建エース株式を7.73%保有する背景

“ゴーイングコンサーン銘柄”への外資による戦略的仕込みと出口戦略を読む

1. 背景と報告の位置づけ

2024年7月29日、香港を本拠地とする投資持株会社新聯利控股有限公司が、株式会社創建エース(証券コード:1757)に関する大量保有報告書を関東財務局に提出した。

本報告書によれば、同社は創建エースの発行済株式総数271,651,756株のうち、21,000,000株(保有割合7.73%)を株式交換の対価として取得している。

この取得は、市場買付や増資引受といった通常の資本参加ではなく、株式交換を通じた無償取得に近い構造であり、双方の事前合意に基づく計画的な資本移動と考えられる。

つまりこれは、単なる保有報告書提出ではなく、中期的な戦略関与を示唆する初動である。

2. 創建エースの経営状況と再建課題

 2-1. ゴーイングコンサーン注記が続く“低位上場企業”

創建エースは、2023年時点で14期連続して「継続企業の前提に関する注記(ゴーイングコンサーン)」が付された企業である。

これは上場企業として極めて異例の状態であり、同社が継続的に営業赤字・資金繰り難・債務圧力に苦しんできたことを物語っている。

一方で、こうした企業は外部投資家から見ると“ターンアラウンド案件”としての魅力を持ちうる。

特に、安価な時価総額、上場維持、既存インフラの存在、経営層の再構築余地などを条件に再建の対象となりやすい。

2-2. キャッシュフロー構造と延命的ファイナンスの限界

2024年3月期の財務情報では、営業キャッシュフロー▲804百万円、投資活動によるキャッシュフロー▲497百万円と、本業からの資金流出が続いている。

その一方で、財務活動による資金調達は+1,467百万円であり、これは借入や新株予約権行使により資金を得ていることを意味する

つまり創建エースは、「自力で稼げないが、外部資本により延命している状態」であり、外部からの資本参加がなければ事業継続すら困難なフェーズにある。

3. セグメント別の現状と評価

創建エースは以下4つの事業を主軸として展開しているが、いずれも決定的な収益源には育っていない。

3-1. 建設事業(巧栄ビルド)

公共工事や住宅リフォームを請け負い、一定の安定需要はあるものの、低利益率かつ競争が激しく、収益の柱とはなり得ていない。

3-2. コスメ・衛生事業(創建メガ)

V-BLOCKシリーズなど衛生商品を販売。コロナ特需後は需要が減少し、成長性に限界。

ただし、アジア市場では抗菌・衛生商品への関心が依然として高く、新聯利控股のネットワークを活かした香港・ASEAN地域への販路拡大が想定される有力な出口である。

3-3. アクア事業

ナノバブルなどの水処理製品を展開するも、市場自体が限定的かつ営業力の不足も目立つ。

これも、環境商品としての付加価値を海外市場で再評価させる可能性がある。

3-4. イベント・IP事業

知財を活用した催事や物販を行うが、収益の波が大きく、中長期的な安定には結びついていない。

全体として、事業ポートフォリオの再定義と選択と集中が急務であり、外部からの改革圧力が望まれる構造といえる。

4. 新聯利控股の狙い──再建型バイアウトへの布石と販路戦略

新聯利控股有限公司は2023年設立の香港法人であり、法人格・住所・代表者以外の詳細は乏しい。

つまり、この“器”は創建エース投資のために設立された投資持株会社である可能性が高い

株式交換により取得しているため、報告書では「取得資金ゼロ」と記載されている。

これはつまり、創建エース側からの株式拠出(実質的な合意)により、新聯利側に発言権が移ったという構図

資本が入ったというより、「主導権がスライドした」と捉えるべきである。

また、コスメ・衛生事業など一部の商材については、香港や東南アジア地域において需要が見込まれており、新聯利控股の目的は再建だけでなく、“販路再設計と海外収益化”という具体的な経済合理性に基づいている可能性が高い

5. 今後の注目点とシナリオ

  • 新聯利控股が株主としてどの程度ガバナンスに介入するか
  • 創建エースが第三者割当や増資に踏み切るか(=さらなる議決権移動)
  • 役員の刷新や業績連動型のIR発表が行われるか
  • 一部事業の切り離しやスピンオフ(=企業の“軽量化”)
  • 海外販路を活用した売上増への道筋が明示されるか

これらの兆候が見られれば、「本格的な再建フェーズ」が動き始めたといえる。

6. 結論

創建エースが抱える「長期的財務不安定性」に対して、香港拠点の新設ファンドが“株式交換”という形で無償に近い形で議決権を取得したという事実は、極めて戦略的な布石である。

これは単なるバリュー投資ではなく、「再建を主導しうる立場を確保した上で、企業変革の起点を押さえる」というアクティブな意図に基づいた行動と捉えるべきだ。

今後、創建エースがどのようなアクションを取るか、新聯利控股がそれをどのように支援・誘導していくかによって、企業の再建ストーリーが本格的に始動する。

市場はこの“前夜”の兆しをどう評価するか──注視すべきフェーズが始まっている。

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