
グローバル投資家の動向から読む“KOBELCO”への評価軸 (大量保有報告書レビュー|2025年4月3日提出)
はじめに
2025年4月3日、ブラックロック・ジャパン株式会社を代表とするブラックロック・グループ6社は、株式会社神戸製鋼所(KOBELCO/証券コード5406)に関する大量保有報告書(特例対象株券等)を関東財務局に提出した。
報告によると、同グループは合計2,035万株(保有割合5.14%)を保有しており、その大部分が投資信託や年金ファンド向けの資産運用の一環であることが明示されている。
1. ブラックロックの保有構造
● 報告義務発生日:2025年3月31日
● 発行済株式数:396,345,963株
● 保有総数:20,357,809株(保有割合:5.14%)
● 主な保有者内訳:
- ブラックロック・ジャパン:7,672,300株(1.94%)
- BlackRock Fund Advisors(米):4,934,400株(1.24%)
- BlackRock Institutional Trust Company(米):3,406,500株(0.86%)
- BlackRock Asset Management Ireland(アイルランド):1,355,309株(0.34%)
- その他:ドイツ籍・iSharesファンド等による分散保有
いずれも「純投資目的」と記載されており、長期運用・分散投資の原則に基づいたものと読み取れる。
2. 担保契約と“貸株”の構造
提出された報告書には、複数の貸株契約が明記されており、一部は以下の通り.
- UBS AG:52万株(アイルランド保有分)
- JPモルガン証券:35.2万株
- SOCIETE GENERALE PARIS、BOFA SECURITIESなども対象に
これらの貸株は、通常マーケットメイキングや清算のための在庫、あるいはヘッジポジション形成のための流動性供給として運用されている。
ただし、一定の需給インパクトを伴う可能性もあり、特に貸付先が空売り等の戦略を用いるプレイヤーである場合には、短期的な値動き要因として注視が必要だ。
3. 神戸製鋼所に対する評価の背景
神戸製鋼所は、鉄鋼・アルミ・機械・電力などを手がける複合型素材メーカー。
足元では脱炭素対応や自動車軽量化ニーズを追い風に、アルミ・電磁鋼板分野で再評価の機運が高まっている。
また、財務構造も以下の通り改善基調:
- ROE:8~10%水準(直近)
- 自己資本比率:約40%
- 株価PBR:0.7倍前後(2025年3月末時点)
これらの数字は「割安バリュー銘柄としての再評価余地」を示しており、ブラックロックによる一連の保有はその裏付けとなる可能性も。
4. 投資家としての視点
ブラックロックによる5%超の保有は、単なる“パッシブ投資”の範囲を超えるインパクトを持ち得る:
- 流動性の観点:市場での株式回転率や貸株需給に影響
- ESG視点の浸透:ブラックロックはESG観点での議決権行使にも積極的
- 中長期保有のスタンス:売買ではなく構造的な長期テーマ投資の一環
KOBELCOのような老舗メーカーに対し、「素材の未来」への信頼感を裏付ける資本参加と見ることもできる。
論評社としての視点
素材・重工業系企業への機関投資家の関心は、単なる景気循環ではなく**構造転換(グリーントランスフォーメーション/電動化対応)**を見据えたものに移行しつつある。
その中で、ブラックロックが神戸製鋼所を「静かに買っている」事実は、同社がグローバルな資本評価軸に適応しつつあることの証左だ。
今後、議決権行使やエンゲージメントがどこまで具体化するかは未定だが、“静かな支持者”としてのブラックロックの存在感は、投資家にとって確かなシグナルと捉えてよいだろう。