船井総研HD、有価証券報告書レビュー

「サステナグロース」を掲げるコンサルの雄、その成長戦略の現在地 (第55期 有価証券報告書|2024年12月期)

はじめに

2025年3月31日、株式会社船井総研ホールディングス(以下、船井総研HD)は第55期(2024年1月~12月)の有価証券報告書を提出した。

創業以来「中堅・中小企業に寄り添うコンサル会社」として知られる同社は、今期も安定した業績を確保し、グループパーパスとして掲げる「サステナグロースカンパニーをもっと。」という旗印のもと、次なる飛躍をうかがわせる中身となっている。

本記事では、同報告書をもとに、船井総研HDの成長ドライバーと経営戦略の現在地、そして今後の注目点を論評者スタイルで読み解いていく。


1. 業績サマリー──コンサルの王道を走る高ROE体質

2024年12月期、船井総研HDの業績は過去最高を記録した。

  • 売上高:30,645百万円(前期比 +8.5%)
  • 営業利益:8,324百万円(前期比 +14.9%)
  • 経常利益:8,411百万円(前期比 +14.5%)
  • 親会社株主に帰属する当期純利益:5,993百万円(前期比 +15.2%)
  • 自己資本利益率(ROE):24.3%(前年比 +4.3pt)
  • 営業利益率:27.2%(前期比 +1.4pt)

セグメント別の売上構成:

  • 経営コンサルティング事業:22,375百万円(構成比 73.0%)
    • 月次支援:15,349百万円
    • プロジェクト:3,024百万円
    • 経営研究会会費:2,576百万円
    • その他:1,425百万円
  • ロジスティクス事業:4,306百万円(構成比 14.1%)
  • デジタルソリューション事業:3,962百万円(構成比 12.9%)

とりわけ主力の経営コンサルティング事業では、医療・介護・福祉分野および製造業向けが堅調。生成AI活用による生産性の向上、セミナー・研究会の参加者数の過去最高更新なども追い風となり、利益面でも大幅な増益に貢献した。

ロジスティクス事業は物流BPOや既存大手顧客との取引拡大が寄与し、営業利益は前期比+25.8%と大幅増益。

デジタルソリューション事業はクラウド開発案件減少により売上は微減(前年比▲2.2%)だったが、人件費抑制と広告運用好調により黒字転換を果たした。

これらを背景に、営業活動によるキャッシュ・フローは7,010百万円と前年(5,479百万円)を大きく上回った一方、財務活動によるキャッシュ・フローは自己株取得と配当支払いにより▲6,971百万円。自己資本比率は77.2%と依然高水準を維持している。


2. 成長戦略と中期経営計画──2025年に向けた「実行フェーズ」

船井総研HDは、2023年から2025年を対象とする中期経営計画を推進中。

ビジョンは“中堅・中小企業向けに「デジタル」×「総合」経営コンサルを提供するグループ”として、以下の5本柱の戦略を展開している.

 

① 経営コンサルティング事業の深化

  • 月次支援・セミナー・研究会を通じた関係性強化
  • M&A/IPO支援、補助金活用等で中堅企業化を促進

② デジタルソリューション事業の再構築

  • クラウド/広告運用/HR(採用クラウド)への集中投資
  • AIスキル強化や開発投資によりDX支援力を底上げ

③ ロジスティクス事業の強化

  • BPOとコンサルのハイブリッド戦略を採用
  • ESGロジ支援を拡充、環境対応への先手

④ 人財戦略の実行

  • 2025年に従業員数1,800名、コンサルタント1,150名体制へ
  • 女性管理職比率25%、Google生成AIライセンス全社導入など、人材の定着と生産性向上を両立

⑤ 資本政策・還元方針

  • ROE目標:2025年に25%以上
  • 配当性向55%以上、総還元性向60%以上を目標とした株主還元強化

3. サステナビリティと人的資本経営──ESG経営の深化

船井総研グループは、サステナビリティ委員会を中心にESGの取組を全社的に展開。

GHG排出量50%削減(2019年比)、Scope2ゼロ化、女性管理職比率向上(2025年目標25%)など、数値目標を明示している。

また、「人的資本経営」においても明確なフレームワークを持ち、スキルアップやD&I、給与水準の改善など、定量的目標とセットで推進している点は秀逸である。


4. 投資家としての視点──安定×成長の好循環モデル

船井総研HDは、収益性、成長性、還元性の3拍子が揃った"投資家好み"の企業体質を備えている。

2024年期のROEは24.3%、自己資本比率は77.2%と高水準でありながら、配当性向は87.0%に達しており、安定配当と高ROEを両立している。

キャッシュ・フローも営業活動によるCFが7,010百万円と極めて健全。財務活動CFがマイナスなのは、むしろ積極的な自己株買いや配当政策の現れだ。

加えて、中期経営計画で掲げるROE25%目標、総還元性向60%という数値目標は、単なる希望ではなく、達成可能なシナリオとして実績に裏打ちされている点がポイント。

事業ポートフォリオも、経営支援という高付加価値ビジネスを中心に、ロジスティクス、デジタル、人財育成と成長市場への展開が進んでおり、構造的な成長余地も見込める。

つまり、船井総研HDは「高ROE」「高配当」「低リスク」の3点セットを有し、長期保有に向く中堅優良株として、着実な評価の積み重ねが期待される存在といえる。


論評社としての視点

コンサルティング会社としての船井総研HDの強みは、「中堅・中小企業に対する現場密着型サービス」「社内コンサルタントの大量育成システム」にある。

特に、生成AI活用を全社展開し、クライアントへの導入支援にスライドさせている点は、先進的かつ実務的な戦略といえる。

また、2025年に向けたROE25%目標、女性管理職25%、社員1,800名体制といった指標は、単なる理念ではなく、実行責任と進捗評価が伴う「経営の筋肉」として機能している。

中小企業支援の旗手として、サステナビリティと人材開発を両輪とする船井総研HDは、日本の経営支援産業の未来像を一歩先に示す存在になりつつある。

おすすめの記事