株式会社ビジョン、有価証券報告書レビュー

“通信×観光”モデルで進化する成長企業の現在地 (第24期 有価証券報告書|2024年12月期)


はじめに

2025年3月31日に提出された株式会社ビジョン(証券コード:9416)の第24期有価証券報告書は、「グローバルWi-Fi」と「情報通信サービス」「グランピング・ツーリズム」という3軸を中核に、事業多角化による成長を続ける同社の姿を鮮明に映し出している。

特に注目されるのは、訪日需要の回復による通信事業の再加速と、安定性を強める法人向け通信支援サービス、そして体験型観光市場を先取りするグランピング事業との絶妙なポートフォリオバランスである。


1. 業績ハイライト──過去最高を更新したトップラインと堅実な利益成長

  • 売上高:355億円(前年比 +11.7%)
  • 営業利益:53.6億円(前年比 +25.3%)
  • 経常利益:54.2億円(前年比 +25.0%)
  • 純利益:33.8億円(前年比 +11.6%)
  • 営業CF:+31.1億円(前期:+50.5億円)

中核の「グローバルWi-Fi」事業がインバウンド回復により売上・利益ともに堅調。

「情報通信サービス事業」や「グランピング・ツーリズム」も二桁成長を記録した。

営業利益率は15.1%まで上昇し、ストック収益の積み上げ・コスト最適化・出荷業務の内製化といった戦術が着実に奏功している。


2. セグメント別の概況

● グローバルWi-Fi事業(売上:198.7億円/利益:59.9億円)

  • 訪日外国人向け「NINJA WiFi」、出国者向けeSIM、空港カウンターでの販売が主力
  • SIM自販機の設置や、5G/無制限データプランの拡充で高単価化に成功

● 情報通信サービス事業(売上:144.9億円/利益:16.9億円)

  • OA機器、携帯電話、電力など中小企業向けに横断的に提供
  • ストック商材の拡販・長期継続により利益率改善

● グランピング・ツーリズム事業(売上:11.5億円/利益:1.2億円)

  • 山中湖・霧島の施設にて単価アップを実現
  • インバウンド再開により稼働率が向上

3. 成長ドライバーと戦略の方向性

● Vision Hybrid Synergy Model

WEBマーケ+訪問営業+法人対応+パートナー連携を融合した独自モデルにより、プッシュ・プル型営業を自在に運用。

● ストック収益重視型へ

Wi-Fi、電力、OA、Web制作など月額型商材の構成比を引き上げ、解約率低減とLTV最大化を推進。

● アップセル・クロスセル戦略の強化

Wi-Fi利用法人向けに、オフィスインフラや人材支援、DX支援まで一括提案する“全方位型法人支援”を展開。


4. 財務体質とキャッシュフロー

  • 自己資本比率:69.1%(前年67.3%)
  • 当座比率:270.2%(前年233.3%)
  • 現預金残高:119.1億円
  • 有利子負債:ほぼゼロ

極めて健全な財務基盤を維持しつつ、内部留保と設備投資を両立。空港インフラやeSIM、SaaS投資に向けたリソース配分も戦略的。


5. サステナビリティと人的資本戦略

  • 女性管理職比率:10% → 2026年12%目標
  • 男性育休取得率:25% → 維持40%以上目標
  • 温室効果ガス排出削減目標(SBT認定済)

人的資本については、組織サーベイ+評価制度見直し+研修強化を三本柱に、エンゲージメント向上を図る。

また、「地方創生」や「医療・子供支援」など地域密着型CSRも強化。TCFD開示・スコープ3までのGHG算出も実施済。


6. 投資家としての視点

株式会社ビジョンは、投資家にとって“通信×観光×法人支援”の三本柱を持つバランス型成長企業として映る。とりわけ次の観点から魅力が高い。

  • 安定と成長の両輪が回る事業ポートフォリオ:グローバルWi-Fiによるインバウンド需要の取り込み、ストック型の法人サービス、観光トレンドを先取りするグランピング事業まで、景気循環の波に対して耐性がある。
  • キャッシュリッチ体質と無借金経営:現預金残高119億円・有利子負債ほぼゼロという財務健全性は、金利上昇局面でも安心材料。
  • PER 18倍・PBR 1倍台前半(想定):成長株として割安感あり。特に営業利益率15%超という高収益性は、中小型成長株の中でも光る。
  • ESG対応の開示レベルも上昇中:SBT認定・TCFD開示・スコープ3排出量の可視化など、海外機関投資家への訴求力も増している。

今後は、eSIM市場での先行優位性や、法人向け統合ソリューションの展開進度が、さらなる再評価のトリガーになるだろう。

論評社としての視点

株式会社ビジョンは、単なるWi-Fiレンタル業者ではない。“通信×観光×法人支援”を一本の戦略軸で統合する稀有な企業だ。

コロナ特需後も持続的成長を実現し、インフラサービスとしてのポジションを確立しつつある。

今後は、eSIMと法人ソリューションの拡張によって、安定性×成長性の両立を加速させる可能性が高い。

2025年の営業利益64億円計画を掲げる中で、さらなるROIC改善・ブランド認知向上が鍵を握る。

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