
株式併合と定款変更の先にある戦略とは?
2025年5月8日、LINEヤフー株式会社(証券コード:E05000)は、東京証券取引所プライム上場企業であるBEENOS株式会社(証券コード:3328)の株式11,335,722株(うち新株予約権417,540株)を取得し、保有割合が80.82%に達したことを関東財務局へ報告した。
この動きは、単なる投資ではなく、「完全子会社化」に向けた極めて明確な意思を伴ったものである。
報告書には、株式併合と単元株制度廃止を内容とする定款変更を含む臨時株主総会の開催をBEENOSに要請する旨が記載されており、実質的な上場廃止プロセスへの移行が始まったと見るべきだ。
越境ECを軸に進化した成長企業
BEENOS株式会社は、かつてのネットプライスドットコムを母体に、グローバルEC事業やインキュベーション投資を手がける企業へと進化してきた。
特に越境ECにおいては、日本の商品を海外に届けるプラットフォーム「Buyee」を中心に、物流・決済・言語の壁を乗り越えるビジネスモデルを確立。
一方で、投資事業にも力を入れており、アーリーステージのスタートアップへの出資や、M&Aを活用した事業ポートフォリオの多様化が進んでいた。
グロース企業としての側面と、ベンチャーキャピタル的な色合いが共存するユニークな存在である。
なぜ今、LINEヤフーはBEENOSを狙うのか?
- 海外EC戦略の統合:LINEヤフーはZホールディングスと統合後、国内EC市場の再編に注力してきたが、グローバル展開では明確な足掛かりが乏しかった。
- BEENOSの海外ネットワークとオペレーションは、LINEヤフーの「国内×海外」クロスボーダー戦略の中核となりうる。
- データ利活用と会員基盤の融合:Buyee経由で得られる海外顧客データと、Yahoo! JAPANおよびLINEの国内ユーザーデータを統合することで、広告事業やCRM領域での新たな収益源を構築できる。
- スタートアップ投資プラットフォームの活用:BEENOSが有するベンチャー投資機能を活かし、LINEヤフーグループ全体のCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)戦略を加速する狙いも見える。
取得構造と取引の背景
今回の株式取得は市場外で一括して行われており、公開買付(TOB)を通じて10,918,182株を4,000円で取得。さらに第11回~第16回までの新株予約権合計417,540個も取得対象とされており、合計で44億円超の資金が自己資金で投下された。
TOBの期間は2025年3月24日から5月7日であり、決済開始は5月14日を予定。取得完了後、株式併合によって残存株主を排除し、完全子会社化を完了させる意向が示されている。
市場への影響と少数株主の立場
本件が意味するのは、事実上の上場廃止である。株式併合を通じて1株未満の端数を創出し、それを金銭で買い取ることで、上場を維持する必要のない「非公開化」が進む。
これは近年増加している「株式併合スキーム型MBO(経営陣買収)」に類似した構造を持つ。
少数株主にとっては、TOB価格が適正であるか、今後の価格是正措置があるかが焦点となる。
また、上場廃止に伴う売却強制のリスクをどう受け止めるか、慎重な判断が求められる。
EC戦略の“外縁”から“中核”へ
LINEヤフーにとってBEENOSの存在はもはや“周縁的な関係会社”ではない。
越境EC・ベンチャー投資・海外データの3つの軸を内包するBEENOSは、LINEヤフーの「次世代商流構造」のキーストーンとして組み込まれようとしている。
この動きは単なるM&Aを超え、デジタル産業全体の構造的再編の一部として捉えるべきだろう。