
静かなる買い手の狙いと、見え始めた経営関与の予兆
2025年5月8日、英国を拠点とする資産運用会社Asset Value Investors Limited(以下、AVI)が、東京証券取引所上場の倉敷紡績株式会社(証券コード:3106)の株式900,156株を取得し、発行済株式数に対する保有比率が5.00%に達したと発表した。
一見すると穏やかな取得であるが、同社が提出した大量保有報告書には「重要提案行為等を行う可能性がある」との記載があり、単なるバリュー投資にとどまらない戦略的意図がにじむ。
Asset Value Investorsとは何者か?
AVIは1985年設立の英国ロンドンに本社を構える投資顧問会社であり、創業以来一貫して「割安株への集中投資」「企業価値の顕在化」をミッションとして掲げてきた。
最高経営責任者はジョー・バウエルンフロイント氏。日本株への関心は非常に高く、過去には東京楽天地、村上開明堂、日本毛織などに投資してきた実績がある。
彼らの投資手法は、PBR1倍割れ・過剰な自己資本・低ROE・不採算子会社など「改善余地のある財務構造」に狙いを定め、株主提案や議決権行使を通じて経営改革を促す“アクティビスト型バリュー投資”に分類される。
倉敷紡績の企業構造と市場評価
倉敷紡績(クラボウ)は、日本の繊維産業の老舗企業であり、衣料用繊維だけでなく化成品、エレクトロニクス材料、医療・ヘルスケア分野にも展開するコングロマリット構造を持つ。
創業130年以上の歴史を誇り、保守的な財務運営と堅実な経営で知られている。
しかしながら、資本効率の面ではかねてより課題が指摘されており、PBRは長らく0.5倍前後、ROEも5%以下という低水準にとどまっている。
また、クロスシェアや不採算セグメントの温存といった、旧態依然のガバナンス構造も課題視されている。
保有の背景と取得資金
報告書によれば、AVIは2025年3月28日から4月28日にかけて、市場内外で断続的に買い増しを進めており、合計取得額はおよそ4億円に達する。この金額はAVIが運用するファンド資金から拠出されており、借入によらない自己資本投資であることが明記されている。
また、取得は数百株単位の地道な買い付けが繰り返されており、敵対的・突発的な買収ではなく、戦略的で長期的なエンゲージメントを前提としたアプローチであることがうかがえる。
今後想定されるアクションと注視点
AVIの過去の行動パターンを踏まえると、以下のようなアクションが想定される:
- 議決権行使による資本政策改革の提言:自己株買い、配当性向の引き上げ、保有資産の売却提案など。
- コングロマリットディスカウント解消の訴求:不採算事業のスピンオフや、持株会社構造の再編を迫る可能性。
- ガバナンス体制の刷新要求:独立社外取締役の増員、クロスシェアの解消、取締役報酬制度の透明化など。
- 中長期的にはMBOや資本提携の提案も:企業価値評価の再定義と、経営者サイドとの対話次第では、TOB・非公開化の含みも。
結論──静かな始動、しかし本質は“改革の狼煙”
Asset Value Investorsの倉敷紡績に対する5%取得は、一見して目立たぬ数字に見えるが、その裏には企業統治への明確な意思と改革志向が読み取れる。
英国発の“構造改革請負人”は、老舗日本企業にどのような影響を及ぼすのか──その答えが示されるのは、次の株主総会かもしれない。