
スコットランド発、静かなる信任と成長期待
2025年5月8日、英国スコットランドを本拠とする老舗運用会社Baillie Gifford(ベイリー・ギフォード)およびその関連会社が、株式会社KOKUSAI ELECTRIC(証券コード:6525)の株式を合計12,762,800株、保有比率5.39%に達したことを関東財務局へ報告した。
対象は東京証券取引所プライム市場に上場する先端半導体製造装置メーカーであり、同社にとっても、ベイリー・ギフォードにとっても注目すべき関係の始まりを意味する。
Baillie Giffordとは何者か?──哲学ある“静かな巨人”
ベイリー・ギフォードは1908年にスコットランド・エジンバラで設立された老舗の投資運用会社であり、長期的視点に基づいたグロース投資を標榜している。
主なクライアントは年金基金や財団、大学基金などであり、売買を繰り返す短期志向のヘッジファンドとは一線を画す存在である。
かつては米国のTesla、中国のMeituan、アマゾン、テンセントといったテック株に早期投資を行ってきた実績を持ち、バリューではなくグロース、短期ではなく長期、効率ではなく構想を重視する運用哲学を体現している。
株式会社KOKUSAI ELECTRICとは?
KOKUSAI ELECTRIC(旧・日立国際電気)は、半導体製造装置の中でも特に成膜工程(CVD等)に特化した技術を持つ企業である。
2023年に再上場を果たし、改めて機関投資家からの注目を集めている。
同社は、グローバルでの装置シェアやプロセス制御の精度の高さ、顧客であるグローバルファウンドリやIDM企業との関係性の強さを武器に、今後の成長が期待されている。
また、生成AIや自動運転、データセンター需要の爆発的拡大に伴う半導体需要の裾野拡大も、同社にとっては大きな追い風だ。
保有構造と投資スタンス
今回の大量保有報告書では、Baillie Gifford & Co(設立1908年)およびBaillie Gifford Overseas Limited(設立1983年)の2社が共同提出者として名を連ねており、それぞれ3.29%および2.10%、合計で5.39%を保有している。
保有目的は「投資一任契約に基づく顧客資産の運用」と明記されており、純投資スタンスである。
ただし、ベイリー・ギフォードの特徴として、いわゆる“物言わぬ株主”であると同時に、経営方針やIR活動、取締役会構成などに対して丁寧な対話を通じて長期的な影響を及ぼす「エンゲージメント重視型」の投資手法が知られている。
3つの注視ポイント
- 半導体製造装置セクターへの長期視点
- 今後10年にわたる世界の半導体製造装置需要に対し、KOKUSAI ELECTRICはAI・5G・脱炭素といったトレンドの中核に位置する。ベイリー・ギフォードはその持続可能な成長性を評価しているとみられる。
- 再上場後の安定株主形成の一環
- 2023年の上場後、同社株主は機関投資家・事業会社・金融機関が混在していた。ベイリー・ギフォードの登場により、中長期志向の安定株主としてのポジションが形成される。
- IR・ガバナンス活動への影響
- ベイリー・ギフォードは気候変動開示(TCFD)、サステナビリティ報告、DEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)などに関心を持つ投資家としても知られ、今後KOKUSAI ELECTRICのIR方針に対する示唆を行う可能性がある。
結論:静かなる“信任表明”──投資家が読むべき含意とは?
ベイリー・ギフォードによる5.39%の保有は、いわば静かな“信任の表明”であり、企業側にとっては「市場から選ばれた」という事実でもある。
投資家目線で見れば、以下の点に注目すべきである:
- ベイリー・ギフォードが重視する中長期ビジョンに、KOKUSAI ELECTRICがどこまで応えられるか?
- ESG・サステナビリティ指標での対応強化が、投資継続の鍵となる可能性
- 今後の買い増しによって“発言力”が強まり、経営へのエンゲージメントが可視化されていくフェーズに入るかもしれない
このように、単なる株式保有を超えて「対話」「信頼」「成長戦略への共感」といった観点が重視される投資家がKOKUSAI ELECTRICを選んだことは、同社にとって中長期成長に向けた貴重な資本パートナーを得たことを意味する。
今後は、企業側がこの信任にどう応えるか。次なるステージに向けた、静かだが確かな期待が市場の中で育ちつつある。