
“キャッシュリッチの罠”と、利益なきM&Aビジネスの現実
成約件数33件、赤字14億、現預金9億円──その構造に、成長の本質はあるか?
東海地方を拠点に中小企業向けの事業承継支援を行う名南M&Aは、会計事務所や金融機関とのネットワークを活かした地域密着型モデルを展開する企業である。
一方で、着実な成約実績とは裏腹に、業績は慢性的な赤字から抜け出せず、「利益なきコンサルモデル」という深刻な構造的ジレンマを抱えている。
第11期中間、決算の“二つの顔”──豊富な現金と、深い赤字
名南M&A株式会社は、2025年3月末時点で現預金を9億9,000万円保有し、自己資本比率92.7%。一見して、健全性の高い財務体質を誇るように見える。
しかし、その内実は大きく異なる。売上は4.8億円に対し、営業損失は1.9億円、最終損失は1.4億円。
つまり、売上の約3割に相当する営業赤字が発生しており、同社の収益モデルが“現金を使って維持されているだけ”の状態にある。
営業赤字の本質──コスト構造と利益創出力の不均衡
PLを精査すると、売上総利益7,099万円に対して、販管費は2億6,450万円。このうち、賞与引当金だけで2,973万円、のれん償却費1,833万円と、限られた利益を圧迫する“非現金項目”が大きな比率を占めている。
さらに営業外損益では、
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投資損失:8百万円(投資事業組合・持分法関連)
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受取利息・配当金:わずか88万円
という結果となっており、資金運用の収益貢献も軽微。営業損失から最終損失への転落には利益を生まない投資活動が影響していることが読み取れる。
キャッシュフローの構図──利益なき資金増加
一方、キャッシュフロー計算書を見ると、営業CFは+5.6億円と黒字である。これは本来好材料に見えるが、実態は“会計処理によって生まれたキャッシュ”に過ぎない。
営業CF構成を見ると:
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賞与引当金増加:+2,974万円
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未払費用の減少:▲1億8,527万円
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未払消費税減少:▲6,163万円
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法人税支払い:▲1億3,849万円
これらの項目はすべて一時的・会計処理的なCF変動であり、「事業が稼いだキャッシュ」ではなく、「帳簿処理で出てきたキャッシュ」である。
しかも営業CFの源泉である“売上債権の減少”や“在庫減少”のような実質キャッシュ創出項目はほぼ存在せず、今後も安定的なキャッシュ創出は困難と推定される。
マフォロバ買収と“利益なきM&Aの連鎖”
当中間期には、マフォロバ株式会社の100%子会社化が行われた。取得対価は2,000万円、のれんは1,833万円計上され、5年償却されることが注記されている。
しかし、問題はこの買収が「業績」にまったく寄与していない点だ。
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PL上、M&Aマッチングプラットフォーム事業の売上は限定的
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営業損失は前年を上回るペースで拡大
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のれん償却が“純損失の数字化”を助長
つまり、戦略的投資が収益構造を補強していないのである。
キャッシュで延命する”経営とその限界
財務CFを見ると、当期の資金流出は配当支払いによる7,858万円のみ。借入もせず、金融リスクも低い。
だが逆に言えば、事業で赤字を出しながら、内部留保だけで回している構造であり、いわば“時間を買う”状態が続いているとも言える。
このような財務戦略は、「事業が近いうちに利益化される」ことが前提で成立するが、現時点でその兆しは乏しい。
M&A仲介ビジネスの“構造的疲労”を映す企業体
名南M&Aが直面しているのは、「マーケットが広がっているのに、なぜ利益が出ないのか」という構造的問題である。
M&A仲介業界は、ガイドライン改訂・コンプライアンス強化・プラットフォーム競争の激化により、“小規模独立系は儲からない構造”に陥りつつある。
今後、この会社が取るべき道は──
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取引件数を増やして規模で稼ぐのか
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少数精鋭で高単価化するのか
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プラットフォームや投資領域に軸足を移すのか
いずれにしても、現金の厚みがある今こそ、決断の猶予期間である。
論評社は見逃さない。キャッシュが尽きる前に、成長の回路を描けるかどうか──その岐路に、名南M&Aは立っている。