
赤字の“許容”とM&Aの“解”に揺れる、DX人材ベンチャーの現在地
IT×リスキリングの現場に挑む“人材ソリューション企業”
BCC株式会社(大阪市)は、IT人材に特化したアウトソーシングと、ヘルスケア領域でのDX導入支援を展開する企業である。
特に、大手IT企業への営業人材供給や、行政受託による介護施設支援、DX人材育成プログラム「Merry Mew」などを展開し、“実務特化型のリスキリング企業”として独自のポジションを築いてきた。
■ 業績サマリー(第12期第2四半期:2024年10月~2025年3月)
指標 | 金額 | 前年同期比・備考 |
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売上高 | 7.3億円 | +6.6% 増収 |
営業損失 | ▲2,509万円 | 赤字幅5倍拡大(前年▲473万円) |
経常損失 | ▲2,509万円 | 黒字から赤字転落(前年+1,928万円) |
純損失 | ▲2,075万円 | 赤字転落(前年+1,244万円) |
営業CF | +1,623万円 | 黒字維持 |
現金等残高 | 4.8億円 | 前期末比▲4,173万円 |
■収益構造──黒字予測から一転、赤字拡大の背景
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売上は堅調に推移し、前年同期比6.6%の増収を記録。
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しかし利益は悪化し、営業損失・経常損失ともに赤字へ転落。
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要因は、新規事業(人材育成SaaS、クラウド、介護関連)の先行投資および販管費の増加。
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特に、これまで黒字だった事業とのバランスが崩れ、営業損失が急拡大。
■セグメント分析──利益を支える“既存”、だが限界も
セグメント | 売上 | セグメント利益 | コメント |
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IT営業アウトソーシング | 6.39億円(+7.8%) | +1.09億円(▲0.6%) | 安定収益源も利益率は鈍化 |
ヘルスケア支援 | 8,563万円(▲5.4%) | +104万円(黒字転換) | 政策依存構造、持続性に課題 |
その他(新規SaaS等) | 574万円(+278.3%) | ▲2,965万円 | 赤字継続、投資フェーズ |
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主力のIT派遣事業は安定的だが、逓減性が見え始めており利益成長にブレーキ。
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ヘルスケア支援事業は黒字転換するも、自治体依存という構造的リスクあり。
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新規事業群は急成長するも、多額の赤字を内包し事業化への不安が残る。
■ 第3章:キャッシュフロー構造──営業CF黒字でも、資金繰りは厳しさ増す
区分 | 金額 | 備考 |
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営業CF | +1,623万円 | 黒字、前年+993万円から増加 |
投資CF | ▲1,050万円 | M&Aなど成長投資に充当 |
財務CF | ▲1,499万円 | 借入返済などで減少 |
現金残高 | 4.8億円 | 前期末から▲4,173万円 |
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財務CFと投資CFの流出が営業CFを上回る構図。
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短期借入金は返済完了し負債構造は健全だが、M&Aによる資産負担の再拡大リスクあり。
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純資産も減少しており、財務的な“余白”は狭まる。
■ 第4章:M&Aの戦略とその意味──「再構築」か「後始末」か
✅ M&A実行内容(2025年4~5月)
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シソーラス株式会社事業譲受(取得原価:1,300万円)
・自社SaaS「bizcre」の開発内製化 -
グッドデジタル社の子会社化(取得原価:50万円)
・DX支援分野での相乗効果狙い
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両案件とも、既存事業の機能強化・内製化という意味合いが強い。
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**「事業を作り直すためのリセット」**という性質が濃く、現状構造の限界を企業側が認識している裏返しとも言える。
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赤字は“投資コスト”である一方、将来収益化に至らなければ“単なる失血”となる。
■ 希望ある赤字か、散漫な戦線か
BCC株式会社の現在地は、以下のような問いを投げかける:
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IT派遣モデルは成長が鈍化していないか?
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ヘルスケア支援は政策次第の“外部依存モデル”に過ぎないのでは?
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SaaSや人材育成領域への挑戦は、分散し過ぎていないか?
そして──
M&Aを通じた事業リブートが次四半期で“数字”となって表れなければ、赤字は希望ではなく「限界の証明」となる。
この赤字は、「再設計の起点」か、「構造疲労の帳尻合わせ」か──。
真価が問われるのは、次の決算である。