【決算分析】株式会社エストラスト(第27期)

企業概要

エストラストは、山口・福岡を主戦場とする地方密着型の不動産デベロッパー。

分譲マンション「オーヴィジョン」シリーズを軸に、不動産管理・賃貸などを展開する“地場型成長企業”である。

 業績サマリー

(第27期:2024年3月~2025年2月)

指標 金額 前期比/補足
売上高 192億円 +6.5% 増収
営業利益 19.9億円 +75.2% 増益
経常利益 19.3億円 +78.1% 増益
純利益 13.4億円 +83.7% 増益(過去最高益)
営業CF +35.0億円 前期比倍増
現預金残高 102.6億円 +25.7億円 増加
自己資本比率 21.7% ▲1.6pt 低下

■ 利益は出た──だが膨らんだ在庫と借入依存

  • 分譲マンションの引渡し戸数は425戸(前年+76戸)、売上増の主因。

  • 営業利益率も改善(前年比+75.2%)、ただし純利益の大部分は一過性の特別利益を含まず、実力での黒字化といえる。

  • だが注目すべきは、棚卸資産の増加(+46.1億円)と短期借入・未払金の膨張

    • → 在庫増加:販売用不動産+44.6億円

    • → 流動負債増加:+80.7億円、うち未払金+37.3億円、前受金+25.5億円

      ➡️ 一時的な黒字ではなく、“仕掛けの多さ”が生む表面的な利益膨張ではないか。

 セグメント別の構造

“マンション一強”が際立つ事業構造

セグメント 売上高 セグメント利益 備考
不動産分譲 171.4億円 22.9億円 売上構成比89%超/戸建販売は微減
不動産管理 6.7億円 0.98億円 管理戸数6,532戸(+723戸)
不動産賃貸 4.4億円 2.07億円 安定収益源/物件取得も継続中
その他事業 9.7億円 1.52億円 前年比▲69.3%の減少
  • 主力のマンション事業に比して、その他部門はブレが大きく、収益構造は偏重型

  • 賃貸事業・管理事業は安定性はあるものの、成長ドライバーではない。

キャッシュフローの構造

“前受金と未払金”頼みの営業CF

区分 金額(百万円) コメント
営業CF +3,501 未払金+前受金で膨張(+6,200百万円相当)
投資CF ▲521 モデルルーム等取得
財務CF ▲409 借入返済超過で資金流出
現金残高 10,261 前年比+2,571百万円
  • 一見健全な営業CFの増加だが、実態は“支払繰延”によるCF改善に近い

  • 長期借入金の返済も進めているが、依然として借入依存の構造は変わらない。

財務構造

自己資本比率は21.7%、目標30%には遠い

  • 目標値:自己資本比率30%以上

  • 現実:21.7%(前年23.3%から低下)

  • 理由:棚卸資産増による総資産膨張と、有利子負債依存体質

  • 金利上昇・市況変動時にはレバレッジ構造のもろさが露呈するリスクをはらむ

この成長は「攻め」か、「積み上がった在庫」か

エストラストの第27期は、数字上は非の打ち所のない決算である。

  • 売上・利益ともに過去最高水準

  • 管理戸数も堅調増加

  • CFも一見順調

だが、それらはすべて「マンション販売の波に乗った結果」であり、
裏を返せば「一度つまずけば一気に収支が崩れる構造」にも見える。


これは成長ではなく、“在庫と借入で演出された黒字”ではないのか。
この次に、「引渡しが滞ったとき」「金利が上がったとき」「用地が高騰したとき」──
果たしてこの財務構造は、支えられるのか。

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