【決算分析】株式会社マーキュリー(第34期:2024年3月〜2025年2月)

ビッグデータとSaaSで挑む不動産DX

 企業概要

株式会社マーキュリー(旧称:マーキュリーリアルテックイノベーター)は、不動産ビッグデータを軸にSaaS型マーケティングシステム不動産広告支援サービスを展開するDXソリューション企業である。
主力の「サマリネット」「リアナビ」は、全国の新築マンションデータを集約し、不動産開発・仲介業者向けに市場分析・営業支援ツールを提供。全国64,000棟超の分譲データ、間取り・価格情報を自社で保有する“国内有数の住宅データベース企業”である。

2024年9月よりGAテクノロジーズの子会社となり、PropTechグループとしての連携を強化

マンション販売領域におけるBtoB型の広告運用・DM配信・サイト制作なども組み込み、“不動産取引の業務支援インフラ”としての地位を確立しつつある。

業績サマリー(第34期)

指標 実績 前年比/補足
売上高 17.63億円 +22.7%(過去最高)
営業利益 1.70億円 +199.5% 増益
経常利益 1.67億円 +182.0% 増益
純利益 1.27億円 +161.6% 増益
営業CF +3.43億円 前年比+282百万(約5.6倍)
自己資本比率 70.9% ▲9.0pt(減少)
現預金残高 6.83億円 +2.38億円 増加

➡ 財務は健全だが、営業外収益(親会社からの利息)や自己株式取得による純資産圧縮など、非事業構造の変化にも注目すべき。

事業構造

「サマリネット」が稼ぎ、「データDL」が跳ねた

サービス区分 売上高 前年比 コメント
プラットフォーム事業 12.38億円 +31.8% 中古マンション領域の“ショット収益”が寄与
デジタルマーケティング 4.70億円 +16.0% CGM広告とリスティング広告が牽引
その他(受託開発等) 0.56億円 ▲40.1% 一時的な受注減
  • 「サマリネット」:月額課金制。解約率0.2%/ARR 8.33億円超と極めて安定。

  • 「データDL」:中古マンション仲介向け。契約社数3,208社/売上高3.21億円で大幅伸長。

  • CGM広告(消費者投稿型メディア活用)が注力領域に。

財務構造

キャッシュ潤沢でも「内部留保の質」に注意

  • 純資産:8.89億円(前年比+1.25億円)だが、自己株式45百万円取得でやや圧縮

  • 有形投資:13百万円(関西支社移転含む)、無形投資:19百万円(ソフト開発)

  • ソフトウエア資産は今後償却フェーズへ移行 → 2026年から原価圧縮が進む予想

親会社構造

GA傘下で「受取利息×子会社」モデルへ

  • GAテクノロジーズが2024年8月に52.3%取得 → 現在は55.41%保有の親会社

  • グループファイナンス制度により受取利息を営業外収益で計上

  • 独立性維持のため、親会社関連取引は社外取締役主導でガバナンス対応済

➡ ただし、「営業利益が出ていても、経常利益がGA利息で補完されている構造」は不安定要素としても機能しうる。

論評社の視点

マーキュリーは“データSaaS企業”になれたのか?

株式会社マーキュリーは、売上・利益ともに大幅成長を遂げ、経常・純利益は過去最高水準だ。だが、そこに含まれるのは:

  • サマリネットの強固なSaaSモデル(だが上積み余地は限定的)

  • 中古仲介向けサービスの一時的“ショット収益”

  • GA傘下でのファイナンススキームによる親会社由来の収益補填

という三重構造である。


この成長は「不動産データベースの勝利」か──
それとも「SaaS風広告会社の、親会社による利息支援」か。

データを活かす“次の事業創出”がなければ、今の売上は“頂上の踊り場”に過ぎない。

おすすめの記事