
ビッグデータとSaaSで挑む不動産DX
企業概要
株式会社マーキュリー(旧称:マーキュリーリアルテックイノベーター)は、不動産ビッグデータを軸にSaaS型マーケティングシステムと不動産広告支援サービスを展開するDXソリューション企業である。
主力の「サマリネット」「リアナビ」は、全国の新築マンションデータを集約し、不動産開発・仲介業者向けに市場分析・営業支援ツールを提供。全国64,000棟超の分譲データ、間取り・価格情報を自社で保有する“国内有数の住宅データベース企業”である。
2024年9月よりGAテクノロジーズの子会社となり、PropTechグループとしての連携を強化。
マンション販売領域におけるBtoB型の広告運用・DM配信・サイト制作なども組み込み、“不動産取引の業務支援インフラ”としての地位を確立しつつある。
業績サマリー(第34期)
指標 | 実績 | 前年比/補足 |
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売上高 | 17.63億円 | +22.7%(過去最高) |
営業利益 | 1.70億円 | +199.5% 増益 |
経常利益 | 1.67億円 | +182.0% 増益 |
純利益 | 1.27億円 | +161.6% 増益 |
営業CF | +3.43億円 | 前年比+282百万(約5.6倍) |
自己資本比率 | 70.9% | ▲9.0pt(減少) |
現預金残高 | 6.83億円 | +2.38億円 増加 |
➡ 財務は健全だが、営業外収益(親会社からの利息)や自己株式取得による純資産圧縮など、非事業構造の変化にも注目すべき。
事業構造
「サマリネット」が稼ぎ、「データDL」が跳ねた
サービス区分 | 売上高 | 前年比 | コメント |
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プラットフォーム事業 | 12.38億円 | +31.8% | 中古マンション領域の“ショット収益”が寄与 |
デジタルマーケティング | 4.70億円 | +16.0% | CGM広告とリスティング広告が牽引 |
その他(受託開発等) | 0.56億円 | ▲40.1% | 一時的な受注減 |
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「サマリネット」:月額課金制。解約率0.2%/ARR 8.33億円超と極めて安定。
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「データDL」:中古マンション仲介向け。契約社数3,208社/売上高3.21億円で大幅伸長。
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CGM広告(消費者投稿型メディア活用)が注力領域に。
財務構造
キャッシュ潤沢でも「内部留保の質」に注意
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純資産:8.89億円(前年比+1.25億円)だが、自己株式45百万円取得でやや圧縮
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有形投資:13百万円(関西支社移転含む)、無形投資:19百万円(ソフト開発)
- ソフトウエア資産は今後償却フェーズへ移行 → 2026年から原価圧縮が進む予想
親会社構造
GA傘下で「受取利息×子会社」モデルへ
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GAテクノロジーズが2024年8月に52.3%取得 → 現在は55.41%保有の親会社
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グループファイナンス制度により受取利息を営業外収益で計上
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独立性維持のため、親会社関連取引は社外取締役主導でガバナンス対応済
➡ ただし、「営業利益が出ていても、経常利益がGA利息で補完されている構造」は不安定要素としても機能しうる。
論評社の視点
マーキュリーは“データSaaS企業”になれたのか?
株式会社マーキュリーは、売上・利益ともに大幅成長を遂げ、経常・純利益は過去最高水準だ。だが、そこに含まれるのは:
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サマリネットの強固なSaaSモデル(だが上積み余地は限定的)
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中古仲介向けサービスの一時的“ショット収益”
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GA傘下でのファイナンススキームによる親会社由来の収益補填
という三重構造である。
この成長は「不動産データベースの勝利」か──
それとも「SaaS風広告会社の、親会社による利息支援」か。
データを活かす“次の事業創出”がなければ、今の売上は“頂上の踊り場”に過ぎない。