
企業概要
看板と中身の乖離
マーチャント・バンカーズ株式会社(MBK Co.,Ltd.)は、不動産を中心に「マーチャント・バンキング事業」を標榜する上場企業である。
だが、その実態は「不動産を仕入れて売る→現金化→配当・自社株取得→株主構成を操作する」という資本戦略と換金戦略を組み合わせた“資産回転屋”に近い。
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所在地:東京都港区西麻布
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代表者:髙﨑正年(代表取締役社長兼CEO)
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上場市場:東証スタンダード(3121)
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主要事業:不動産取得・開発・売却、マーチャント・バンキング(名目)
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セグメント:現在は単一。旧オペレーション事業は完全撤退済。
財務ハイライト
(2024年11月〜2025年4月期)
指標 | 第101期中間 | 第102期中間 | 増減(額/率) |
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売上高 | 14.2億円 | 16.3億円 | +2.1億円(+14.7%) |
営業利益 | 0.16億円 | 1.0億円 | +0.89億円(+565.0%) |
経常利益 | 0.73億円 | 0.03億円 | ▲0.70億円(▲96.1%) |
親会社株主純利益 | 0.14億円 | 0.01億円 | ▲0.13億円(▲90.7%) |
営業キャッシュ・フロー | +4.6億円 | +11.6億円 | +7.0億円(+154.3%) |
投資キャッシュ・フロー | +40.6億円 | ▲9.5億円 | ▲50.1億円 |
財務キャッシュ・フロー | +32.2億円 | ▲5.3億円 | ▲37.5億円 |
自己資本比率 | 23.3% | 25.3% | +2.0pt |
総資産 | 172.4億円 | 156.8億円 | ▲15.6億円 |
現金及び同等物(期末) | 4.9億円 | 8.4億円 | +3.5億円(+73.6%) |
黒字演出のからくり
営業利益は出る、だが現金は残らない
マーチャント・バンカーズの今期(第102期中間)の営業利益は1億464万円。前年同期比で+565%の増益だ。しかしその下を見れば、構造の歪みは明白である。
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支払利息:1億1,995万円
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手数料・引当金等:5,000万円規模
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経常利益:たったの283万円
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税前利益:2,838万円
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純利益:わずか1,264万円
これはつまり、営業外費用が営業利益の90%以上を溶かしていることを意味する。利息の重さは、借入依存体質の象徴であり、“営業利益=見せかけの稼ぎ”に過ぎない。
論点:「なぜ営業外費用をこれほど膨張させているのか?
財務レバレッジによって構築された“見かけの黒字”ではないのか?」
営業CF11億円の真実
“利益”ではなく“売却”による数字
営業キャッシュ・フロー(CF)は11億5,774万円と見事に黒字。だがその内訳はこうだ:
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棚卸資産(=販売用不動産)の減少:約9億8,800万円
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消費税調整、減価償却:+2億円超
つまりこのCFは、“本業で稼いだカネ”ではなく、“不動産を売って得たカネ”である。実態は営業CFではなく在庫処分CF。恒常性・再現性はない。
論点:「営業CFが回復したと見るのは誤解。
この現金は“事業で稼いだ”ものか、それとも“資産を換金した”だけなのか?」
セグメント撤退と“単一構造”の危険性
今期より、事業セグメントは「マーチャント・バンキング事業」のみとなった。その背景には以下の“撤退”がある:
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ホテル運営会社(旧ケンテン):事業譲渡
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ボウリング場(土岐グランドボウル):事業譲渡
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飲食・小売:完全撤退
つまり、安定収益型のオペレーション事業は全廃され、企業は“売る”だけの不動産会社になった。
論点:「多角化戦略の否定により、不動産相場一本に依存する脆弱な経営構造に陥っていないか?」
利益1,264万円で還元2億円
狂った資本政策
今期の純利益はたったの1,264万円。しかし同社は以下を実施した:
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自己株式取得:1億4,678万円(約50万株)
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配当金支払い:5,854万円(1株あたり2円)
合計2億円に近い“還元”が行われた。だがこれは利益によるものではない。販売用不動産を売却し、現金化して配分したに過ぎない。
しかも利益剰余金は減少しており、還元の持続可能性も説明されていない。
論点:「この還元は誰のためのものなのか?
株主還元を装いながら、実は議決権構成の再編を狙った資本操作ではないのか?」
支配構造の“暗黒領域”
実質所有と議決権の沈黙
株主名 | 持株比率 |
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アートポートインベスト | 33.91% |
TOTAL NETWORK HOLDINGS | 18.81% |
株式会社ぽると(実質所有含む) | 18.11% |
自己株式 | 2.44% |
合計で73%以上の株式が実質的に支配構造下にある。特に注目すべきは「株式会社ぽると」に関する“実質所有株式数”の記載である。これはEDINET上でも異例で、他の株主にない“特権的開示”である。
論点:「なぜ“ぽると”だけが実質所有と明記されるのか?
この構造は、少数株主の影響力を意図的に遮断するための仕組みではないのか?」
全構造が変わっているのに、“リスク変更なし”?
報告書の記載によれば:
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「リスク項目の変更:なし」
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「課題の変更:なし」
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「経営戦略の変更:なし」
しかし事実は:
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セグメント変更
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キャッシュ構造の変質
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自己株政策の大転換
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株主構成の固定化
これだけの構造変化がありながら、「該当なし」で押し通す取締役会の姿勢こそが最大のリスクではないのか。
論点:「開示を最小化し、監視の目を避ける“形式主義”の統治。
それは、企業が説明責任を放棄しているということではないか?」
マーチャント・バンカーの名を剥奪されるべき企業
MBKは、もはや“企業支援”ではなく、“資産換金→株主構成操作→株価防衛”を繰り返す資本取引会社に等しい。
そこにあるのは創造でも投資でもなく、資金循環の演出だけである。
果たしてこの企業は、「価値創出装置」か、「支配者のための現金工場」か。
株主と市場に対して、今こそその存在意義が問われている。