粉飾の代償と再起の構造:アライドアーキテクツ決算分析

不適切会計と構造改革の全貌を問う

企業概要:SNSとSaaSを融合するマーケティングDX企業

アライドアーキテクツ株式会社(Allied Architects, Inc.)は、SNSやデジタルメディアを活用したBtoBマーケティング支援を主軸とするIT系企業。

2005年に東京都渋谷区で設立され、2013年に東証マザーズ上場(現グロース市場)を果たした。

事業構成は大きく分けて以下の3領域:

  • 国内事業:マーケティングSaaS「Letro」シリーズと、SNSソリューションを提供

  • クロスバウンド事業:中国SNS「RED」などを活用した越境マーケティング支援

  • 海外事業:シンガポール法人SuperFactionによる3D広告制作(現在は解散)

ミッションは「世界中の人と企業の創造がめぐる社会へ」。しかし近年、成長の停滞と不適切会計の発覚により、ガバナンスと財務の両面で大きな転機を迎えている。

■財務ハイライト(2024年12月期)

指標 数値 前期比
売上高 3,463百万円 ▲14.6%
営業利益 ▲459百万円 前期+→赤転
経常利益 ▲386百万円 前期+→赤転
親会社株主純利益 ▲516百万円 2期連続赤字
自己資本比率 58.4% ▲12.1pt
営業CF ▲107百万円 マイナス継続
現預金残高 1,940百万円 ▲CF維持

不適切会計の発覚

クロスバウンド事業の“仮装売上”構造

2024年12月期、有価証券報告書の最も衝撃的な記述は、クロスバウンド事業部門における架空売上・前倒計上による不適切会計の存在だ。

調査委員会の報告によれば、部門長自らが自己承認取引を行い、売上の前倒し・架空計上・顧客検収メールの偽装までを実施。内部統制は完全に形骸化していた。

  • 被疑期間:2020年〜2023年の複数会計期にわたり訂正報告を提出

  • 主因:営業成績の“達成”を装うための内部圧力と構造的ガバナンス欠陥

  • 実施手段:

    • 顧客メールの“ダミーアドレス”登録による検収偽装

    • 自己承認による契約登録

    • 取引成果物の裏付けなき計上

海外事業の撤退

SuperFaction Pte. Ltd.清算の意味

海外戦略の柱であったSuperFaction Pte. Ltd.(旧Creadits)は、2024年末に解散手続きに入った。

対象事業は主にゲーム業界向けの3D広告制作であったが、iOSのプライバシー強化・ゲーム業界の広告予算削減が直撃した。

  • 売上高:486百万円(前年比▲49.9%)

  • 営業損失:明記されていないが、「収益性改善は極めて困難」と報告

  • 債権放棄あり、損失計上なし

海外撤退は、「選択と集中」における明確な意思表明であり、国内回帰戦略の一環と評価される。

国内事業の統合とAI活用による再構築

2024年7月には、旧プロダクト(SaaS)事業と旧ソリューション事業を統合。主力製品「Letro」シリーズを軸に、統合シナジー創出とAI活用による提案高度化を進めた。

  • 売上:2,528百万円(全体の7割を占拠)

  • 事業再編の成果が第4Qから表面化

  • AIによる提案精度向上・インサイト抽出が顧客単価改善に寄与

今後は“国内特化型の高付加価値マーケティングDX企業”への脱皮を図るとしている。

内部統制とガバナンス改革の進捗と限界

本件不祥事を受け、経営陣は以下のガバナンス再構築策を掲げた。

  • 経営会議の定期設置

  • リスクマネジメント委員会の新設

  • 自己承認取引の廃止と承認フローの再設計

  • 顧客検収確認メールの「法人ドメイン縛り」設定

  • 管理部門と内部監査の三線体制を再構築

    しかしながら、販売管理システムが「カスタマイズにより複雑化している」とされ、即時の改修が困難な実情も認めている。この点は**“人治主義”から“システム統治”への過渡期**であることを物語る。

キャッシュフローと資金調達の現況

  • 営業CF:▲107百万円(2期連続マイナス)

  • 財務CF:+311百万円(長期借入500百万円調達)

  • 自己資本比率:58.4%(▲12.1pt)

  • 現預金残高:1,940百万円

短期的な資金繰り懸念は見られないが、「借入による延命」の印象も否めない。

資本効率の改善を掲げつつ、投資有価証券の売却にも言及している点は注目すべき。

信頼の回復は“構造の透明化”から始まる

アライドアーキテクツは、SNSとSaaSを融合した独自のDX支援モデルを持ちながら、ガバナンスの脆弱性によって事業の信頼性を大きく損ねた。

しかし、今回の報告書には企業としての反省と構造的改革への覚悟が現れている。

今後の焦点は、「再発防止策がどこまで機能するのか」「国内事業での利益回復が可能か」に絞られる。信頼を取り戻すには、実績と透明性を積み重ねるしかない

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