ブラックロックがピジョン株5.03%の保有

示された“中長期型ガバナンス対話”の可能性

2025年6月17日、世界最大の資産運用会社ブラックロックグループは、ベビー・育児用品の大手であるピジョン株式会社(証券コード:7956)の株式を合計6,117,100株保有していることを大量保有報告書にて開示した。

これにより、ブラックロックグループ全体としての保有割合は5.03%となり、法定開示ラインを超えたことが明らかになった。

本件は、ブラックロック・ジャパン株式会社を筆頭としたグループ6社による連名提出であり、保有目的は「純投資(投資一任契約または投資信託等による資産運用)」と記載されているが、ピジョンの置かれている経営環境と近年のグローバルESGトレンドを鑑みると、単なるポートフォリオ保有を超えた“対話型資本”としての側面が色濃く見て取れる。

ピジョンとは?

少子化時代のベビー市場を支える国内トップ企業

ピジョンは哺乳瓶やおしゃぶり、ベビーカー、スキンケア用品などベビー関連商品のトップメーカーとして知られ、国内外で高いブランド認知を有している。

特に中国や東南アジア市場でのシェア拡大を進めてきたが、直近では日本国内の少子化による販売停滞や、中国EC市場の競争激化の影響で業績はやや踊り場にある。

また、育児支援の観点でESG評価の高い企業である一方、資本政策や取締役会構成、IR戦略に関しては“保守的”との評価も多く、アクティブな機関投資家からの構造的評価と対話を求められる状況が強まりつつある。

ブラックロックの構成とスキームの概要

報告書によると、保有主体は以下6法人で構成される。

  • ブラックロック・ジャパン株式会社:2,718,900株(2.23%)
  • BlackRock Fund Advisors:1,680,300株(1.38%)
  • BlackRock Institutional Trust Company, N.A.:1,119,100株(0.92%)
  • BlackRock Asset Management Ireland Limited:275,300株(0.23%)
  • BlackRock (Netherlands) BV:199,000株(0.16%)
  • BlackRock Financial Management, Inc.:124,500株(0.10%)

すべての保有は投資信託や年金資金、ETF経由によるものであり、“受動的保有”の形態を取っているが、総計で5%を超える保有という事実は、ブラックロック特有の「沈黙型エンゲージメント」の可能性を強く示唆する。

3つの戦略的視点

なぜ今ピジョンなのか?

  1. PBR1倍割れ水準での“資本効率是正”余地
    • ピジョンのPBRは長らく1倍を下回っており、自己資本の活用に関する再設計が求められている。ブラックロックはこうした企業に対し、ROEの向上や自社株買いを“対話”を通じて促してきた実績がある。
  2. ESG+育児支援領域の親和性強化
    • ブラックロックは世界的にESG領域の投資比率を高めており、育児支援や女性活躍、ジェンダー平等に関連する企業への中長期投資を強化している。ピジョンはその中核ターゲットに位置づけられる。
  3. グローバル展開におけるリスクマネジメント視点の介入
    • 中国市場偏重の戦略に対する“事業ポートフォリオの再構成”や、“複数市場展開戦略の透明性”といった点で、機関投資家によるリスク対話が行われる可能性がある。

“声なき対話”がピジョンの資本政策を試すとき

ブラックロックのピジョン株5.03%保有は、表面的にはETFやファンドの一環に見えるが、その背後にあるのは「資本効率をどう考え、誰と対話していくか」という企業ガバナンスの根幹に対する静かな問いかけである。

投資家にとっては、ピジョンがこの“沈黙の資本”とどのような対話を始めるのか、IR活動の変化や資本政策の見直し、ESG目標の再設定などの動きが出てくるかどうかを丁寧に見極める局面にある。


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