
全額借入による「レバレッジ支配スキーム」の深層構造
2025年6月17日、いなよしキャピタルパートナーズ株式会社(以下、いなよしCP)は、株式会社学びエイド(証券コード:184A)の株式1,138,300株を取得し、発行済株式ベースで33.40%に達したことを大量保有報告書にて開示した。
この保有割合は、単なる大量保有の閾値(5%)を大きく超え、会社法上の特別決議を阻止可能な水準(3分の1超)に達する“準支配権ライン”である。
しかも、取得資金5億7,711万8,100円のすべてが、NOVAホールディングス株式会社(代表:稲吉正樹氏)からの借入金で賄われているという点は、市場関係者にとって見逃せないシグナルとなった。
いなよしCPとは何者か
“金融と教育”を横断するハイブリッドSPC
いなよしキャピタルパートナーズは2015年設立の東京都品川区所在の企業であり、代表はNOVAホールディングス代表でもある稲吉正樹氏。
事業内容は証券投資、不動産賃貸、学習塾経営と多岐にわたるが、実質的にはNOVAグループの戦略投資子会社として機能している。
今回の取得は、「学びエイドとの資本業務提携を目的とする」と記載されているが、NOVAからの全額借入による資本介入という構図からは、“系列化”や“資本的傘下化”の意図がにじむ。
学びエイドとは?
教育×DXベンチャーの“資本の岐路”
学びエイドは、動画教材・学習管理プラットフォームを主軸とするEdTech企業であり、東証グロース市場に上場するスタートアップである。教育機関とのBtoB契約に加え、個人向けサブスクリプションモデルにも展開している。
近年、教育系SaaS企業への評価は二極化しており、「継続率」「LTV(顧客生涯価値)」「営業利益率」が市場評価を分けるカギとなっている。そうした中で、同社は成長期待と経営の安定性との“バランス感”が問われている段階にあった。
資本構造の異常点
3つの論点で読む“仕掛け型保有”
- 全額借入での3分の1取得=「レバレッジ支配」
- 取得金額5.7億円の100%を、NOVA本体からの借入金で調達。自社リスクなしに経営影響力を得る構造は、スキームとして極めて異例である【549†source】。
- “親会社色”の強い借入条件=系列化の布石
- 借入先であるNOVAホールディングスは、いなよしCPと同一住所に所在し、代表も同一人物。形式上の資本業務提携に見せかけた“実質買収”の色合いが強い。
- 特別決議阻止ライン超えの意味=経営への否応ない影響
- 33.40%という比率は、株主提案権の確保はもちろん、合併・定款変更などの特別決議を拒否できる「拒否権的マイノリティ支配」を可能にする水準である。
今後の注目ポイント
- 学びエイド取締役会が、いなよしCP=NOVAによる資本参入にどのような姿勢を示すか(受容か、防衛か)
- 資本提携に伴う人事・IR方針の変化の有無
- 他株主(既存VC・創業株主)との交錯や、支配株主への該当判断
- 資金の使途や、NOVAグループとの業務シナジーの実効性
形式は「提携」、実質は「乗り込み」か
いなよしキャピタルパートナーズによる33.40%取得は、資本業務提携と称されながらも、完全にNOVA本体の資金で上場企業を支配する“ノンリコース型MBO類似スキーム”である。
この構造が市場の規律にかなうものなのか、また学びエイドの独立性と説明責任がどう保たれるのか──今後の開示姿勢と経営判断が問われる。
投資家としては、「誰がリスクを取り、誰が支配するのか」という根源的な問いを忘れてはならない。