
事業構造と親子上場の矛盾を問う
企業概要
SBIグローバルアセットマネジメント株式会社は、SBIホールディングスの資産運用事業を担う上場中核企業である。
主力子会社のSBIアセットマネジメントをはじめ、WealthAdvisorを運営するウエルスアドバイザー社、米国拠点のCarret Holdings/Asset Management LLCなどを傘下に持つ。
しかし、実態はどうか。SBIホールディングスが52.7%の議決権を保有する親子上場体制であり、業績構造も人的構成もSBIグループ色に染め抜かれている。
果たして、「投資家主権」を掲げる企業の実像はその理念と一致しているのか。
財務サマリー(2025年3月期)
指標 | 数値 | コメント |
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売上高 | 11,568百万円 | 過去最高、13期連続増収 |
営業利益 | 2,269百万円 | 2期連続増益、過去最高益 |
経常利益 | 2,565百万円 | 16期連続増益、金額は微増 |
親会社株主純利益 | 1,647百万円 | 実質ベースで過去最高益(2023年除く) |
自己資本比率 | 83.5% | 高水準維持も資本減少は懸念 |
のれん | 1,625百万円 | 減損リスクを内包 |
キャッシュフロー構造分析
営業CFが通常水準に戻る一方、のれん圧力が静かに蓄積
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営業CF:+2,007百万円(前年:+8,762百万円)
→ 2023年度の「モーニングスター」ブランド売却収入(9.3億円)が消え、通常水準に。 -
投資CF:+359百万円(前期は5.4億円の支出)
→ 投資有価証券の売却益が支えた黒字化。買収・設備投資は限定的。 -
財務CF:▲2,013百万円
→ 配当金1,950百万円が主因。株主還元は潤沢なキャッシュの使い道に。 -
現金残高:4,008百万円
→ 流動性は維持されているが、純資産は前年より700百万円減少。
のれん(1.6億円超)の圧力が資本構造に影を落としている点は要注意だ。
アセットマネジメント事業
信託報酬モデルの「サステナビリティ」とは何か?
売上高の84%(約97.5億円)を稼ぐのは、信託報酬ビジネスを中核としたアセットマネジメント部門。
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公募投信残高:3.5兆円(前期比+30.7%)
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私募投信:2.4兆円(地方金融機関が主顧客)
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海外:4,874億円(米Carret運用)
新NISAによる追い風を背景に、「低信託報酬+インデックス拡充+高配当型」という商品構成が功を奏す。
だが裏を返せば、平均信託報酬の急速な低下=収益性の構造的劣化を意味する。
しかも、のれんの約60%(954百万円)は米Carret買収に起因しており、その定量的なリターンは見えにくい。
ファイナンシャル・サービス事業
「独立評価機関」の実像と限界
売上の15.7%(18.1億円)を担うFS部門では、WealthAdvisor端末の提供(全国116,327台)を軸に、投資信託の中立評価を行っているとされる。
しかし、
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SBIグループに対する売上依存が「一定の割合で存在」(報告書記載)
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主要取引先にSBI証券、SBI新生銀行、その他SBI系列が含まれる
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役員兼務、人材の出向受入れ、事務所賃借までもがSBI本体に依存
──となれば、「中立・客観的」とは一体何を意味するのか。
モーニングスター返上後の“評価業”の独立性は、投資家の信頼と真逆に進んでいないか。
「のれん圧縮なき合併戦略」の構造的リスク
合計1,625百万円にも上るのれんは、以下の2系統から生じている:
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Carret Holdings / Asset Management(米国):954百万円
→ 成果は見えにくく、アクティブ型にしては利益率も乏しい -
SBIアセットマネジメント関連(3社統合):671百万円
→ SBI系ファンドの再編による合併コストとして残留
現在のところ、減損兆候はないとされているが、これらのれんが資本の約10%を占める状況は、中長期的には大きな爆弾となりうる。
SBIGとの関係
“隠れ子会社”としての独立性問題
報告書では「SBIホールディングスの100%子会社が52.7%の議決権を保有」と明記されており、名目的には独立上場だが、実質はSBI金融部門の一角であることを隠しきれない。
しかも、
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グループ外への販売展開は限定的
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親会社からの営業収入が「業績の一定割合を占める」
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将来的に「SBI戦略に巻き込まれるリスク」も明記されている
これは、“親子上場”という東証の制度的グレーゾーンの典型であり、上場維持の意義そのものが問われるフェーズにある。
「投資家主権」とは誰のためにあるのか?
SBIグローバルアセットマネジメントは、「投資家主権の確立」という美名を掲げつつ、その実態はSBIGの資本政策の道具であり、のれん圧縮なき合併戦略の副産物である。
WealthAdvisorによる評価サービス、低コストの投信、顧客中心主義──これらの価値は否定しない。
だが、投資家の目線から見たとき、それらがSBIグループの株価支援策や販売戦略に組み込まれているとしたらどうだろうか?
問い直すべきは、理念と構造の整合性である。