
大量保有報告書分析
2025年7月7日、米国拠点の大手機関投資家キャピタル・リサーチ・アンド・マネージメント・カンパニー(Capital Research and Management Company)は、円谷フィールズホールディングス株式会社(証券コード:2767)に対する発行済株式の5.95%(3,891,900株)を保有したことを開示し、関東財務局に大量保有報告書を提出した。
今回の報告義務発生日は2025年6月30日であり、キャピタル社としては初の5%超報告。
開示は同社の日本側代理人であるクリフォードチャンス法律事務所(東京都千代田区丸の内)を通じて行われており、形式上は「特例対象株券等」としての届け出となっている。
報告書上の保有目的は「日本国外の投資信託のための純投資」とされており、ガバナンス提案や経営参加等の意図は否定されている。
しかし、取得株式のうち418,438株(全体の約1割超)がJPモルガン・チェースとの貸株契約に基づく貸付対象であることが明記されており、名義上は保有しつつも実効的な議決権が行使されない可能性が存在する構造となっている。
キャピタル・リサーチ社とは何か
キャピタル・リサーチ・アンド・マネージメント・カンパニー(CRMC)は、ロサンゼルスに本拠を構える米国系大手の資産運用会社であり、世界最大級の独立系アクティブファンド運用企業「キャピタル・グループ(Capital Group)」の中核をなす。設立は1931年、90年以上の運用実績を誇り、顧客資産総額は約2.3兆ドル(2024年時点)に達する。
CRMCはETFなどのパッシブ商品ではなく、主にアクティブ運用による長期投資戦略を採用しており、独自の調査アプローチ「The Capital System」によって、個別アナリストに運用裁量を分散させる独特なポートフォリオ設計が特徴である。
これは、単独のファンドマネージャーに依存せず、複数の視点で分散された議決権行使や投資判断を行うため、個別企業に対して目立った提案行為をしない一方、長期的な経営改善圧力を“沈黙のうちに加える”スタイルが浸透している。
ESG対応やコーポレートガバナンス方針にも強く関心を示し、日本企業に対してもIR面での情報開示や取締役構成、資本効率性(ROE/ROIC)などに関するエンゲージメントを水面下で行うことが知られている。
円谷フィールズHDとは何者か
発行者である円谷フィールズホールディングスは、かつての「フィールズ株式会社」がグループ再編により持株会社化した上場企業である。
中核事業には、特撮ブランド「ウルトラマン」シリーズを擁する円谷プロダクション、パチンコ・パチスロ機の企画製造販売を行うフィールズ、ならびに映像・IP開発を担う海外展開子会社などがある。
さらに、近年ではM&Aや金融投資領域にも進出しており、純粋なエンターテインメント企業ではなく、IP資産を軸にコンテンツ×金融を融合させる“ハイブリッド上場体”としての特徴を強めている。
このような企業に対して、世界最大級のアクティブファンド運用会社が5%を超える保有を行ったことは、単なる指数連動買いでは説明しきれない“選別的評価”が働いている可能性を示唆している。
貸株契約が映す資本構造の曖昧性
キャピタル・リサーチによる本件取得は、短期売買目的ではなく、中長期にわたって投信顧客資産のなかでポートフォリオ保有される形と見られるが、一部株式がすでにJPモルガンに貸し出されていることから、名義と議決権の帰属が一致しないという構造的リスクをはらんでいる。
また、今回の報告では「直前の報告書」は存在せず、2025年前半にかけて断続的に買い増しされた結果として5%を突破したと推察される。
キャピタルが沈黙を保ったままエンゲージメント強化に向かうのか、それとも将来的に議決権行使を通じた影響力発揮に転じるのか──その方向性はまだ不明である。
円谷フィールズHDという“柔らかい”企業構造に対し、キャピタルのような“硬質な資本”がどう作用するのか。
外資とIPビジネスの交錯がガバナンス・資本政策・ROE方針などにどのような揺らぎをもたらすのか。
議決権行使報告、株主総会動向、定款変更リスクなどを含めた多角的な監視体制をもって、本件の進展を追い続ける。