
地方ファンドが狙う“プレIPO戦略”
2025年7月25日、株式会社常陽キャピタルパートナーズ(代表取締役:池田重人)は、フラー株式会社(証券コード:387A)の株式90,000株を保有し、発行済株式1,695,520株に対する保有割合が5.31%となった旨の大量保有報告書を関東財務局に提出した。
この保有は、同社がREVICキャピタル株式会社と共同で管理する「いばらき新産業創出ファンド投資事業有限責任組合(以下、本組合)」を通じて行われたものだが、報告書を読み解くと、地方ファンドによるスタートアップ支援型ロックアップ戦略の全貌が浮かび上がってくる。
常陽キャピタルとは
地域金融主導の産業創出プレイヤー
株式会社常陽キャピタルパートナーズは、地方銀行・常陽銀行系の投資子会社として2021年1月に設立された地域密着型の投資会社である。
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本社所在地:茨城県水戸市南町2丁目5番5号
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代表:池田重人氏(旧・常陽銀行投資部門出身)
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事業内容:投資事業組合財産の管理・運営
地域企業への成長投資や、スタートアップとの事業連携を目的としたファンド運営を行っており、特にREVIC(地域経済活性化支援機構)との共同ファンドによって、「官民連携型ベンチャーファンド」を形成している点が特徴である。
保有の構造
ファンド経由の出資と“分割+出資”の併用モデル
報告書によれば、90,000株の取得は以下の構成となっている。
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うち9,000株:出資金を用いた現物取得
- 残り81,000株:株式分割により取得
さらに、取得資金の全額(22,758,300円)は「その他資金=本組合出資金」から拠出されており、借入等は行われていない。
この構造から見て取れるのは、フラーのIPO準備段階(グロース市場上場)におけるプレIPO投資家として、常陽キャピタルが制度的かつ低リスクな形で資本参加を行ったという点だ。
ロックアップ契約の存在
SBI証券を通じた90日間の売却制限
報告書には以下のロックアップ条項が記載されている。
本組合が保有する株式は、東京証券取引所グロース市場への上場日(2025年7月23日)から90日間(10月21日まで)、主幹事であるSBI証券の事前承諾なく売却しない。ただし、上場価格の1.5倍以上かつSBI証券を通じた売却であればこの限りでない。
これは典型的な「グロース市場プレIPO出資者向けロックアップ」契約であり、上場直後の価格暴落を避けるために設計された資本安定化メカニズムであると同時に、1.5倍を超えた場合にのみ“エグジット解禁”となる極めて制度的な売却制限付き投資である。
フラー株式会社とは
地方発の“UI/UX×DX”スタートアップの本命株
フラーはUXコンサルティングやアプリ開発支援を手がける新興企業であり、地方発ベンチャーとしての成長モデルに注目が集まっている。
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本社:千葉県柏市(地方創生拠点)
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事業内容:デジタルプロダクト支援、DXコンサル、アプリUI改善等
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強み:自治体・インフラ・教育系案件に強いUXデザイン知見
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顧客:大手企業や自治体、研究機関等
今後の焦点は、上場後のIR戦略、開示スタンス、資本政策であり、常陽キャピタルのような地域資本がどのように“株主からの対話”を通じて持続的経営を支えるかが問われる。
“5.31%”に込められた地域ファンドの戦略的意味
常陽キャピタルパートナーズによるフラー株5.31%保有は、単なるスタートアップ支援ではない。
それは、「地方銀行系ファンドが、IPO支援→短期ロックアップ→1.5倍で流動化」を1本の線として描いた、制度設計型の地方成長資本戦略の証左である。
地域が、企業を支える投資家になり、成長を見守る“地元株主”となる──その理想のひとつの形が、この5.31%に凝縮されている。