
光通信が狙った老舗企業カメイ
2025年7月31日、光通信株式会社が提出した大量保有報告書が、市場の一部で密かに注目を集めた。対象は、東証プライム上場のカメイ株式会社(証券コード:8037)。
カメイは、宮城県仙台市に本社を置く総合商社であり、石油、LPガス、住宅設備機器、食品、医療関連商品までを扱う「地域密着型のコングロマリット」として知られる。
100年以上の歴史を持ち、堅実な経営で地域社会に根差した安定成長を続けてきた。
そのような企業に対し、光通信は全体の5.00%に相当する1,650,900株を、すべて市場内で取得したと報告した。代表取締役の高橋正人氏の名義で提出されたこの報告書には、取得の目的として「純投資」と記されている。
しかし、この取得は偶然の産物ではない。光通信の動きは、計算され尽くした“静かな資本戦略”であり、その背後には同社が一貫して進める「優良資産企業への無言のガバナンス圧力」という投資哲学が見え隠れする。
2ヶ月にわたる断続的な買い集め
報告書に記された取得履歴は圧巻である。
2024年6月3日から7月31日までの約2か月間、光通信はほぼ毎営業日にわたって、精密な数量での買い増しを実施していた。
- 1日あたりの取得株数は3,000株〜9,800株と安定的に分散
- 取得回数は40回超、株価に大きな影響を与えないよう設計されていた
- すべて市場内取引(立会内)で、ブロック取引やTOBなどを避けた“自然な蓄積”
- 使用資金は約3.18億円で、すべて自己資金で調達
これは“買っていることに気づかせない買い方”であり、「市場に痕跡を残さず、しかし確実に支配率を高める」ことを目的とした極めて高度な資本操作である。
なぜカメイなのか?
光通信がこれまでも投資してきた企業群──たとえば岡谷鋼機、泉州電業、トシン・グループなど──にはいくつかの共通点がある。
- 低PBR(1倍以下)で放置されている銘柄
- 多額の現預金・不動産など保守的なバランスシート構造
- 配当性向や資本効率(ROE、ROIC)が控えめ
- 創業家・地元主体の経営体制で、株主還元に消極的な傾向
カメイもまさにその文脈に属する。過去の財務諸表を見ると、自己資本比率は高く、利益剰余金や不動産資産が潤沢。だが、その割には株主還元策や資本効率改善への意欲は限定的である。
光通信が狙っているのは、この“資産はあるが意識の改革が必要な企業”なのである。
“純投資”に隠れた戦略的意図
大量保有報告書には「純投資」と記されているが、5.00%というピンポイントな保有比率は偶然ではない。
- 5%超で「変更報告書」の提出義務が発生するライン
- 6ヶ月以上保有すれば、株主提案権を行使可能(会社法303条)
- 重要提案行為(役員選任・定款変更など)を行わない範囲での「監視的存在」に留まれる絶妙なポジション
これは、「今は発言しないが、企業行動をすべて見ている」という強烈な無言のメッセージである。
実際、光通信が過去に「純投資」から「行動型株主」に転じた事例も存在することから、今回のカメイに対する保有も将来的な影響行使を視野に入れた布石である可能性は否定できない。
光通信が日本の地方企業に突きつける“構造改革圧力”
この投資は、単に割安株への資産運用ではない。むしろ、上場企業の資本構造とガバナンスの“改革可能性”を可視化する試みだ。
カメイに限らず、地方企業や中堅商社には、眠れる資産、改革余地、非効率な資本構成が放置されているケースが少なくない。
光通信は「外から声を荒げず、だが明確に構造改革を促す」独特な存在であり、その戦略は今後も地方企業の資本政策に無言の圧力を与え続けるだろう。
カメイが変わるか──あるいは光通信が次の一手を打つか。今後の静かな駆け引きに注目が集まる。