UBSが仕掛ける“構造支配”──共立メンテナンス

共立メンテナンスとは

学生寮から始まった独自の宿泊ビジネスモデル

株式会社共立メンテナンス(9616)は、学生寮・社員寮・ホテル・高齢者住宅を展開する総合生活支援企業である。

  • 主力事業:ドーミーイン(ホテル)、ドーミー(学生寮)

  • 成長領域:訪日インバウンド再開に伴うホテル部門の復調

  • 特徴:固定資産を持たず、借地・借家での高稼働率モデル

共立は、堅実な経営と安定した配当政策で知られ、株主構成もかつては国内の年金基金中心だった。しかし、その構造に静かに食い込んだのがUBSグループである

報告書の骨格

5社連名・総数421万株、構造的連携の実態

2025年8月22日、UBSグループによる5社連名での「特例対象株券等報告書」が提出された。

主な構成は以下の通り。

提出者名 保有株式数 保有割合(%) 保有目的
UBS AG(銀行) 1,957,372株 2.46% ディーリング目的
UBS Switzerland AG 71,631株 0.09% ディーリング
UBS Asset Management (UK) Ltd 630,400株 0.80% 投資一任・信託
UBS Asset Management (Europe) S.A. 1,456,199株 1.82% 投資信託契約等
UBS Fund Mgmt (Switzerland) AG 98,496株 0.13% 投資信託契約等
合計 4,214,098株 5.21% -

報告書は金融商品取引法27条の26に基づく「特例報告書」であり、議決権影響や経営関与に関する記載義務が大幅に軽減されている。

一見すると分散された保有に見えるが、株式の貸借・担保スキームを用いた“実質統一行動体”である可能性が高い。

報告書に見える金融エンジニアリング

「保有」「貸株」「借株」の構造

報告書内には、以下のような高度な貸借取引構造が散見される。

  • UBS AGが1,957,372株保有し、複数の機関投資家から合計60万株以上を借株

  • UBS Asset Management (Europe) S.A.は新株予約権付社債1,455,399株を保有

  • 各社間で総計約10万株以上の貸株・担保のやり取り

このような構造は「経済的実権」と「議決権・名義上の権利」の乖離を意図的に作り出すものであり、金融商品取引法の形式主義に依存して“非開示圏”を維持していると見られる。

なぜ共立メンテナンスがターゲットに?

安定需給・成長性・流動性の三拍子

UBSが共立メンテナンスを選定した背景には、以下の要素が複合していると考えられる。

観点 詳細
市場テーマ 観光回復(インバウンド)、高齢者住宅ニーズの拡大
財務指標 PBR0.8倍台、自己資本比率70%超、配当利回り2.3%前後
流動性 1日の平均売買代金が10億円前後と安定
IR活動 積極的でありながら、外資対応への経験は限定的

特にドーミーイン部門の稼働率改善や、今後のインバウンド完全再開を見越した中期的ポジション取りとしては理に適っている。

制度の盲点を突いた「静かな支配」

議決権なき実質影響力の拡大

本件で注目すべきは、UBSグループの構造的アプローチが「合法」かつ「透明性回避型」であるという点だ。

  • 「特例報告書」により、通常の大量保有報告より情報の粒度が粗く

  • 貸株や転換社債等によって株主名簿上に現れずに“支配構造”を構築可能

このように、名義上は中立的な投資行動に見せながら、実際には企業の資本コスト構造や需給に大きな影響を与えるのが現代的な“構造投資”の特徴である。

共立メンテナンスのような安定経営企業こそ、狙われやすく、かつ企業側も警戒しづらい対象となりやすい。

UBSは支配を宣言しない

だが既に構造は掌中にある

UBSは議決権行使や提案活動を公に行わない。

だが、貸株・転換社債・複数法人連携による制度内支配のプロトコルを完成させている。

共立メンテナンスにとって、これは新たな資本のリアリティだ。企業側のIR体制・株主構成戦略、さらには資本政策そのものの再考を迫られる局面と言えるだろう。

おすすめの記事