
株式会社スタメン
エンゲージメントテック企業の再評価
スタメンは、企業向けエンゲージメントSaaS「TUNAG」を中心とする、いわゆる“組織文化可視化系”のスタートアップである。
2020年12月に東証マザーズ(現グロース)へ上場。急成長期を経て、現在は黒字化に向けた構造改革段階にある。
株主構成上は創業者である加藤厚史氏が筆頭株主であり、実質的には創業家によるコントロールが続いていた。
だが今回、提出された変更報告書によって、その支配構造に大きな揺らぎが生じ始めていることが判明した 。
報告書の骨子
共同保有23.88%、持株比率は1年で急低下
提出者は以下の4者。
氏名/法人名 | 保有株数 | 保有割合 |
---|---|---|
加藤厚史(個人) | 1,200,000株 | 13.69% |
株式会社スターフロンツ | 492,900株 | 5.62% |
株式会社YMS | 200,000株 | 2.28% |
株式会社JOM | 200,000株 | 2.28% |
合計 | 2,092,900株 | 23.88% |
重要なのは、加藤氏個人の保有比率が25.10% → 23.88%へ減少したことだけでなく、その中身に劇的な構造変化が生じている点だ。
創業者支配の裏で進む「融資依存」と「担保漬け」構造
報告書に記された保有株券の変遷を見ると、創業家支配の背後に金融機関との複雑な関係が浮かび上がる。
-
加藤厚史氏個人は、2025年時点で1,200,000株(13.69%)を保有
-
うち最大100万株を東海東京証券・大和証券へ担保提供
-
現時点では担保解除済みだが、野村信託に対して24,000株+176,000株を新たに担保設定
-
-
YMS・JOMはいずれも加藤氏が代表を務める資産管理会社
-
両者で合計40万株(4.56%)を保有
-
資金調達手段はすべて加藤氏個人からの借入(総額2億円以上)
-
さらに、2025年6月27日には、**スタメン代表取締役との間で「譲渡予約権付き契約(880円×120万株)」を締結。
これは「売上369億円以上達成」という条件付きながら、加藤氏が支配権を放棄する“将来の選択肢”を提示したことに等しい。
これは、創業者が“徐々に資本を手放す準備”に入った可能性を示唆している。
なぜ今“創業家支配”に変化が生じているのか?
こうした動きの背景には、以下の複合的要素が考えられる。
観点 | 内容 |
---|---|
資金繰り | 株式を担保に現金化する動きが顕著。借入総額は2億円超 |
株価動向 | スタメン株価は2024〜2025年で大幅調整(ピーク比6割減) |
ガバナンス意識の高まり | 上場企業として「創業家ワントップ体制」からの脱却圧力 |
譲渡予約権の条件 | 業績連動型の形をとることで“譲渡の正当化”が可能に |
また、複数の資産管理会社を経由して株式を保有していることから、株式の分散と金融的マネジメントを進める意図がうかがえる。
今後の焦点
加藤体制の持続性と譲渡リスク
特に注目すべきは、2027年〜2030年にかけて「株式譲渡予約権」が行使される可能性があることだ。
この契約が発動されれば、スタメンの支配権は、
-
加藤氏→現経営陣(代表取締役)へと移転
-
創業家支配体制の“終焉”
というシナリオも想定されうる。
上場時に20%超の株式を保有していた創業者が、4年で株を売却・担保化し、10年で経営権を譲る構図は、現在の日本型スタートアップの“EXITモデル”としても象徴的である。
「安定株主」は永遠ではない
スタメンに見る創業者資本構造の変遷
本件の最大の示唆は、単に持株比率が減ったという話ではない。
創業者による株式保有が、外形的には“維持”されていても、実質的には“担保・譲渡予約・融資”という金融装置に組み込まれているという点だ。
スタメンのようなスタートアップが成熟する過程で、創業者支配がどのように“資本構造として変容していくか”を象徴する事例である。