“52.94%の支配者”──Evo Fundがシンバイオ製薬を選んだ理由

沈黙の外資「Evo Fund」とは?

報告書の提出者は、ケイマン諸島に登記されたEvo Fund

運用会社は米ネバダ州に拠点を置くEvolution Capital Management LLCであり、同ファンドは日本の中小型株におけるイベントドリブン型投資で知られる存在だ。

  • 設立:Evo Fund(2006年)、Evolution Capital(2002年)

  • 代表者:リチャード・チゾム(Richard Chisholm)氏

  • 所在地:ケイマン諸島および米ネバダ州

  • 法律代理人:アンダーソン・毛利・友常法律事務所(大手町)

表向きの保有目的は「純投資」と記されているが、その中身は極めてアクティブだ。

52.94%

驚異の支配力

報告書によれば、Evo Fundはシンバイオ製薬の52,322,000株(52.94%)を保有。

このうち実際に行使可能な普通株は2,322,000株に過ぎず、残り5,000万株は新株予約権(第65〜67回)である。

【内訳】

種類 株数 備考
普通株式 2,322,000株 借株による市場外取得(2025年7月〜)
新株予約権 50,000,000株 全部コミットメント(3回に分けて行使予定)
合計 52,322,000株 支配比率52.94%(発行済総数換算)

つまり、Evo Fundは行使ベースで実質的な筆頭株主、支配者の地位にあると言える。

なぜここまで集めたのか

3段階に分かれた“全量コミットメント”

Evo Fundはシンバイオ製薬と2025年8月12日付で、第65〜67回新株予約権を引き受け、行使スケジュールを明確に契約している。

【スケジュール】

回号 発行株数 行使単価 行使期間
第65回 20,000,000株 8円 2025年8月13日〜2026年8月12日
第66回 20,000,000株 7円 2026年8月13日〜2027年8月12日
第67回 10,000,000株 3円 2027年8月13日〜2028年2月12日

これにより、最大で3億円相当の資金供給を分割で実行する契約になっている。

そのうえで

  • 中間期間で半数を行使する義務

  • 譲渡には取締役会の書面同意が必要

  • 発行者指示でスケジュールは前倒し可能

という条件付きである。つまり、新株予約権の所有は投資というより“資本注入権+株価コントロール権”と見るべきだ。

借株と行使、そして“実質ロックアップ”構造

報告書には、最大168万株を吉田文紀氏から借り入れている旨が明記されている。

さらにBNPパリバ、ステート・ストリートからも少額を借株。

市場内で需給影響を出さずにポジションを確保し、徐々に“行使株”へと移行する設計といえる。

これは、市場内売却を前提としない資本参加であり、株価暴落を避けながら段階的に支配力を築くモデルだ。

Evo Fundは“短期筋”ではない

中長期視点の資本構造支配

今回のスキームは、いわゆる“デススパイラル”型のワラントファイナンスとは異なる。

むしろ

  • 段階的な株式行使

  • 1年単位の保有契約

  • 行使後も譲渡制限あり

  • 低単価ゆえに発行済株数が激増しない

といった要素から、中長期の資本支配を意図した“優良設計型ファンド”と見る余地がある。

Evo Fundにとっては、「安定株主の不在」「資金調達ニーズの高さ」「市場反応の希薄化」が揃ったシンバイオは、極めて効率のよい“支配対象”だったといえる。

“静かに支配する”外資の新たなテンプレート

Evo Fundの動きは、日本の中小バイオにおいて新たな資本支配のパターンを示している。

  • 表向き「純投資」でも、中身は全量行使契約+譲渡制限

  • 実際の株数は市場で取得せず、契約と借株で支配構造を構築

  • シンバイオにとっては巨額の資金調達だが、議決権比率を失いかねないリスクも併存

本件は、いわば“合法的な支配者設計”のプロトタイプだ。

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