
リボミックの現在地
夢の核酸医薬、現実の資本難
リボミック(4591)は、東京大学発の創薬系バイオベンチャー。
アプタマーと呼ばれる核酸医薬に関する独自技術を持ち、難病領域やがん、眼科領域での創薬パイプラインを有する。
しかし、現在に至るまで自社創薬の大型収益化には至っておらず、慢性的な資金調達と“将来性評価頼みの株価推移”が続いてきた。
今回提出された大量保有報告書は、こうした状況に一石を投じる“外資ファンドによる静かな侵攻”の記録である。
Evo FundとEvolution Capital
日米連携による「二重保有構造」
本報告書の提出者は、ケイマン諸島のEvo Fundと米ネバダ州のEvolution Capital Management LLC。
両者は実質的に一体運用であり、過去にも以下のような企業に深く関与してきた。
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シンバイオ製薬(52%支配)
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アンジェス(借株戦略)
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ブロッコリー(2016年大量保有→TOB利得)
今回も、“市場で騒がれずに行使・支配する”というテンプレートに沿った動きが確認される。
衝撃の行使価格
“0.04円、0.03円、0.02円”という現実離れした割当
2025年8月8日、リボミックは第18〜第20回新株予約権(合計3,150万株)をEvo Fundに第三者割当。
その行使価格が驚異的だ。本当に
回号 | 株数 | 行使価格 | 割当日 |
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第18回 | 950万株 | 0.04円 | 2025年8月8日 |
第19回 | 1,100万株 | 0.03円 | 同上 |
第20回 | 1,100万株 | 0.02円 | 同上 |
この水準は、直近の市場価格(およそ100円前後)と比べて2,500〜5,000分の1の超ディスカウントである。
これはもはや「新株予約権」というより、企業価値と議決権構造を外部ファンドに“丸ごと渡す契約”である。
保有割合と借株構造
29.38%の実質支配体制
報告書では、両者が保有する株式・潜在株式は以下の通り 。
分類 | 株数 | 割合 |
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普通株式 | 119,500株(借株) | 0.27% |
新株予約権(潜在株式) | 31,500,000株 | 70.6%(発行済換算) |
合計 | 31,619,500株 | 29.38%(発行済株式+潜在株式ベース) |
特筆すべきは、普通株の大半がBNPパリバ、ステート・ストリート、中村義一氏からの借株である点。つまり、市場を通さず、価格形成に影響を与えないよう取得している。
契約条項の中身
“完全コミットメント型”と譲渡制限
報告書から読み取れる契約内容は、極めて戦略的である 。
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各回号の行使時期は年単位(2025〜2027年)で設定され、全量行使義務付き
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発行者は行使制限期間を自由に設定可能
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新株予約権の譲渡には発行者取締役会の同意が必要
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一定条件下では行使制限、または無効化条項も存在
つまり、Evo Fundは単に行使権を持つだけでなく、「実質的に発行者と運命共同体化」している。これは支配かつ責任の共有であり、従来の希薄化型ワラントとは一線を画す。
これは支援か、それとも“合法的支配”か?
このスキームをどう見るか──それは、投資家一人ひとりの視座に委ねられている。
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バイオベンチャーにおける外資主導の資本再編
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希薄化リスクの背後にある、行使条件付きの戦略的支配
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市場外から接近する“見えない大株主”の存在
Evo Fundは再び、“沈黙の中で企業の内側に入り込み”、制度の内側から議決権を獲得していく。
そしてリボミックにとっては、この出資が「延命措置」か「脱皮の契機」かは、今後のIR姿勢と経営判断にかかっている。