
シティインデックスとシンガポール資本の影
大量保有報告が告げた変化
2025年9月24日、メガチップス(証券コード6875、東証プライム)の株式について、大量保有報告書が提出された。
提出者はシティインデックスイレブンスと、シンガポール在住の個人投資家 野村絢氏。共同保有割合は5.10%(1,053,900株)に達し、メガチップス株主構成に新たな緊張を生じさせた。
形式上は「共同保有」だが、実際の保有は野村氏が大部分を占め、シティインデックスは100株のみを持つにすぎない。
名目上の共同保有に過ぎない可能性が高く、実態は海外資本による直接投資である。
投資主体の素顔
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シティインデックスイレブンス
東京都渋谷区に拠点を置き、投資・コンサルティング・不動産事業を展開。代表は福島啓修氏。過去にも複数の上場企業の株式報告に名前を連ねており、実質投資家の「窓口」としての役割が疑われる。 -
野村絢氏
シンガポール共和国ブキットタンガルロード在住。Isamu Holdings Pte. Ltd.のマネージングディレクター。今回、自己資金53億円超を投じて株式を取得している。借入依存がなく、資本の純度は高い。
形式は個人投資家だが、動きはまるでヘッジファンドのように緻密である。
取得の軌跡
毎日刻まれた買付
報告書には、7月末から9月末にかけての細かい取引履歴が並ぶ。
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7月28日:6,300株取得
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8月8日:60,900株取得(最大の買付日)
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9月2日:27,200株取得
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9月24日:21,900株取得
この間、ほぼ毎営業日、数千〜数万株単位の買い増しが行われている。
市場内で目立たない範囲で買い集め、最終的に5%超を確保する「静かなる買い集め」の典型的パターンだ。
その結果、表面上は緩やかな株価推移の裏で、株主構造は確実に変容していた。
5%の意味
法制度が与える権限
日本の金融商品取引法における「5%ルール」は、単なる届出義務ではない。
5%を超えた株主には、経営陣に対する重要提案権が与えられる。
今回の報告書にも、保有目的として「投資及び状況に応じた経営陣への助言、重要提案行為等」と記されている。
すなわち野村氏は、将来的にメガチップス経営に影響を与える可能性を法的に確保したことになる。
企業が直面するリスクと可能性
メガチップスは、任天堂向けのゲーム用LSIや半導体ソリューションを手掛ける企業である。
成長余地はあるが、資本市場での評価は安定しない。そこに新たに現れた「シンガポール資本による5%」が与えるインパクトは小さくない。
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資本政策への圧力
5%は議決権行使で直接的に経営を左右する数字ではないが、株主総会における存在感は大きい。 -
ガバナンス改善要求の可能性
閉鎖的な日本的経営慣行に、海外投資家の存在は外圧となりうる。 -
再編シナリオの火種
過去にM&Aや業界再編の文脈に揺れた同社にとって、外部株主の意向が再び再編圧力となる可能性は否定できない。
「健全な外圧」か「静かな包囲網」か
今回の大量保有報告は、表面上は一投資家による5%取得に過ぎない。
しかしその背後には、
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日本企業に対して着実に食い込む海外資本
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名目的に共同保有者を置くスキーム
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毎日の市場内取引で積み上げる静かな戦術
といった戦略的要素が潜む。
論評社が問うのは、この「静かな5%」がメガチップスの成長を後押しする健全な株主行動なのか、それとも将来的な経営支配を見据えた包囲網の布石なのか──という根源的な問いである。
資本市場の透明性と企業統治が試される局面に、またひとつ新たな事例が加わった。