
Gold Pacific Global Limitedとは何者か
Gold Pacific Global Limited は2003年に設立された香港法人で、所在地はクォリーベイのHoi Wan Street、Ka Wing Building。
代表者は川瀬篤(Kawase Atsushi)氏で、法人の登記上も直接的な経営者として名前を前面に出している。
これは、巨大機関投資家や欧米系ヘッジファンドのように組織的な匿名性で覆い隠すのではなく、個人主導で小回りの効く独立系ファンドであることを示唆する。
さらに、電話番号や連絡先まで公表されており、香港での独立運営であることが明確に打ち出されている。
こうした特徴は、グローバルに巨額資金を運用する「メガファンド」とは異なる、ニッチ市場に狙いを定め、スピーディに売買を繰り返す投資主体であることを強調する。
表面上は「純投資」として届け出られているが、実際の取引パターンを見るとイベントドリブン型(増資・新株予約権発行など)や短期回転型の性格が濃い。
つまり、市場イベントを収益機会と捉え、迅速に出入りする“流動性投資家”としての顔がある。
報告書の内容
2025年9月30日提出の変更報告書によると、Gold Pacific Globalのジェリービーンズグループ株式保有比率は7.04%から5.19%に減少した。
保有株式総数は3,806,200株で、そのうち3,263,100株は新株予約権による潜在株式に該当する。
つまり実際の支配力は「潜在的」な株式行使に依存しており、保有割合の変動はワラント戦略と密接に結びついている。
短期売買の軌跡
取引履歴は短期間での激しい売買を物語る。
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8月29日:市場外で普通株2,105,200株(@95円)、新株予約権5,263,100個(@2.64円)を取得
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9月2〜4日:市場内で合計2,062,100株を処分(@123〜195円台)
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9月18日:新株予約権100万個を市場外処分(@0円)、同時に普通株100万株を市場外取得(@95円)
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9月19〜25日:市場内外で合計2,500,000株超を処分(@103〜108円台)
これらは、安値で新株予約権を取得 → 行使や市場外取引で株式化 → 市場で処分して利確という流れを繰り返すパターンであり、典型的なワラント・アービトラージの動きと一致する。
資金の構造
615億円超の自己資金
今回の取引に充てられた資金は自己資金615億円超。借入金の記載はゼロで、純粋に内部資本で動いている。
この点は、レバレッジや外部金融機関に依存する外資ファンドとは異なり、独立色の強い自己完結型ファンドであることを示している。
ただし、自己資金だからこそ機動的で短期回転に特化した運用を可能にしており、香港拠点の地理的特性(中国本土と日本市場双方にアクセスしやすい)を活かして、日本市場を“資金回転の場”として利用している可能性が高い。
ジェリービーンズグループ側の位置づけ
ジェリービーンズグループはアパレル小売・EC事業を展開し、グロース市場に上場している。市場規模は限定的で、株式流動性も比較的薄い。
このような企業は、海外資金が一気に数%規模を取得すれば株主構成を一変させられる脆弱性を抱える。
今回のような短期資金の出入りは、企業戦略やガバナンスに直接影響しなくても、株価の急騰・急落を引き起こしやすい点でリスクとなる。
視点と論点
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「純投資」と実態の乖離
保有目的は「純投資」と記されるが、実際はワラントを駆使した短期利ざや取りの要素が強い。形式と実態の差が、規制や市場参加者にとって問題となる。 -
香港拠点の独立ファンドの特性
米欧の巨大ファンドと異なり、数百億規模の自己資金を柔軟に回す小規模プレイヤー。だが規模が小さいからこそ、日本市場のグロース銘柄にとっては十分に“支配的”な存在となる。 -
グロース市場の脆弱性
規模が小さい市場に外資資金が流入すると、経営関与なしでも市場価格や株主構造を大きく揺さぶる。今回の事例はその典型である。
“純投資”を装う回転資金
Gold Pacific Global Limitedの保有比率は5.19%に低下した。だが、注目すべきは数字そのものよりも、株式と新株予約権を組み合わせ、短期で回転させる外資ファンドの投資スタイルである。
香港を拠点にした独立系資金が、自己資本で日本市場の小型株を揺さぶる構造は、グロース市場の持つ制度的リスクを浮き彫りにしている。
──これは資本市場にとって健全な流動性供給なのか。それとも企業価値を翻弄する外資の資金ゲームなのか。
ジェリービーンズグループのケースは、日本市場の「外資に開かれた脆弱性」を象徴する事例である。