ありあけキャピタル、あいちフィナンシャルG株を5.06%取得

地方金融の再編を見据えた“越境アクティブ資本”の動き

報告書が示す事実

2025年10月7日、ありあけキャピタル株式会社(代表取締役:田中克典)が、株式会社あいちフィナンシャルグループ(証券コード7389、東証・名証上場)の株式を5.06%保有していることが明らかになった。

報告義務発生日は9月30日で、保有株式数は2,488,000株

報告書では「純投資(投資一任契約に基づく運用を目的とする)」としつつ、必要に応じて「経営陣への助言や重要提案行為を行う可能性がある」と明記している。

この一文は、単なる投資家ではなく、地方金融の経営再生・効率化を意識した“対話型アクティブ資本”としての意思を示すものだ。

投資主体の素性

ありあけキャピタルとは

ありあけキャピタル株式会社は2020年設立。本社は東京・日本橋兜町FinGATE BASEに所在する独立系運用会社だ。

代表の田中克典氏は、機関投資家・プライベートエクイティ出身であり、「伝統金融×フィンテック×対話型投資」を掲げる新世代の運用者として知られる。

同社の特徴は、

  • 伝統的なファンド運用とアクティビスト的対話を両立するハイブリッド型運用スタイル

  • 機関投資家・富裕層の委託資産を活用し、企業経営の生産性改善・ガバナンス高度化を狙うアプローチ

  • 投資対象を「地方金融」「製造業」「不動産×金融」など構造転換が求められる分野に特化

これらの方針は、短期的な利益追求を目的とする従来型のアクティビストとは異なり、地域経済を再生させる長期志向型の“社会的投資”という性格を帯びている。

取引の実態

2か月にわたる緻密な積み上げ

報告書の取引履歴をみると、ありあけキャピタルは2025年8月初旬から9月末までの約2か月間、ほぼ連日市場内で買いを継続していた。

  • 8月4日~8月29日:1日あたり1〜2万株規模の取得を継続

  • 9月上旬:51,400株(9月2日)など取得ペースを一時的に増加

  • 9月末:37,900株の最終取得で5%ラインを突破

最終的に、49,124,671株中2,488,000株(5.06%)を確保し、法的開示基準を超えた。

取得資金は約68億円(6,816,173千円)に上り、すべて顧客資金による運用である。借入金は一切記載されておらず、レバレッジを使わない純資産投資の形だ。

また、投資行為は「アリアケ・マスター・ファンド」との一任契約を通じて実施されており、国内外の機関投資家が委託した資金を運用している構造となっている。

あいちフィナンシャルGの背景と投資の意義

あいちフィナンシャルグループは、名古屋銀行・中京銀行・愛知銀行を傘下に持つ地域金融持株会社。2022年に三行が経営統合して誕生した。

統合後は、デジタル化・地域企業支援・スタートアップ投融資などを強化しており、“地域総合金融プラットフォーム”化を掲げている。

しかし統合効果の可視化には時間を要しており、PBR(株価純資産倍率)は依然として1倍を下回る。

こうした状況でありあけキャピタルが参入した背景には、

  • 統合後の資本政策・経営ガバナンスの最適化

  • 株主還元強化(配当性向・自社株買い)の余地

  • 地銀業界再編への布石
    といった複合的な狙いが見える。

同社の投資目的に記された「経営陣への助言」「重要提案行為等の可能性」という一文は、

地域金融の変革に“株主側から関与する覚悟”を意味している。

視点と論点

  • “地方金融アクティビズム”の台頭
     中央集権的な金融支配から、地方経済の自立を促す新潮流。ありあけキャピタルの動きはその一端を示す。

  • ガバナンスと地域連携の両立
     経営効率を高めつつ、地域支援という地銀本来の使命を損なわない資本戦略が問われる。

  • アクティブESGとの親和性
     投資先の経営改善だけでなく、環境・地域社会・人材育成へのリターンを意識した“社会的アクティビスト資本”としての位置づけが際立つ。

地方金融を変える“アクティブ資本”の胎動

ありあけキャピタルによるあいちフィナンシャルグループ株の5.06%取得は、単なる金融取引ではない。

それは、地方銀行が資本市場とどう向き合うかという問いに対する一つの回答である。

地域経済の再生には、資本の力が必要だ。

だが、それは「外圧」ではなく「共創」としての資本――。

──“投資と地域”を繋ぐプレイヤーが、今、静かに地方金融を動かし始めている。

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