株式会社ランド──“売上10分の1”の衝撃

不動産×再エネの看板の下に潜む、短期金融型経営のリスク構造

■ 企業概要

株式会社ランド(本社:横浜市西区、代表取締役社長 松谷昌樹)は、不動産再生事業と再生可能エネルギー投資事業を柱とする中堅企業である。

かつては不動産の買取再販・共同事業を主軸に、短期で利益を回収する回転型デベロッパーとして成長した。

近年は脱炭素トレンドを追い風に、太陽光・蓄電所などの再エネ案件を取り込む方針を掲げている。

しかし、同社の実態は「不動産+再エネ」ではなく、金融取引型の“案件回転モデル”に依拠しており、キャッシュを継続的に生む事業構造とは言い難い。

2025年中間期決算では、売上がわずか3.6億円と前年の1/10に急減。営業キャッシュフローも大幅流出となり、数字のうえで「収益が止まり、資金が動かない企業」へと変質している。

第30期中間決算サマリー(2025年3月〜8月)

指標 前年同期比 金額(千円)
売上高 ▲88.6% 368,839
営業利益 ▲117.6%(赤字転落) ▲146,061
経常利益 ▲116.8%(赤字転落) ▲138,265
親会社株主に帰属する中間純利益 ▲122.4% ▲138,310
総資産 ▲4.2% 9,596,800
純資産 ▲3.3% 8,610,800
自己資本比率 +8.3pt 89.6%
営業キャッシュフロー ▲2,825百万円(流出) ▲1,556,578
現金残高 ▲42.3% 2,296,997

表面上は自己資本比率が9割近くと“健全”に見えるが、
実態は売上・利益・キャッシュすべてが大幅に縮小した緊縮決算である。

セグメント別動向

セグメント 売上高(百万円) 営業利益(百万円) 前年比 コメント
不動産事業 311 +81 ▲90% 売却案件激減。引渡し遅延で回転率が急低下。
再エネ投資事業 0 ▲61 ±0 売上計上なし。開発・仕入れコスト先行。
その他事業 57 +45 一部精算案件による一時益。恒常性なし。

主力の不動産事業が失速、再エネ投資事業は依然として仕込み段階止まり

収益を牽引するセグメントが存在せず、事業構造の根幹が揺らいでいる。

キャッシュフロー分析 ― 現金が「案件」に吸い込まれる構造

営業キャッシュフローは▲15億円超の流出。

主因は棚卸資産・共同事業出資金の増加で、「仕入・投資先行」「売却未達」の典型的パターンだ。

一方、投資CFは▲0.2億円と軽微だが、営業CFの流出を補う余地はなく、財務CFでは配当金(約1.5億円)を維持したことで資金繰りをさらに圧迫した。

結果、期末の現金残高はわずか22億円台。

前期比で約17億円減少しており、現金回転率が急低下している。

不動産・再エネともに「在庫化」した資金が戻らない。
現金が案件に吸い込まれ、事業の血流が細っている状態だ。

財務構造の実態

総資産96億円のうち、約6割を共同事業出資金・棚卸資産が占める。

これらはキャッシュ化まで時間を要する“流動資産に見える固定資産”。
つまり、現金同等ではなく“拘束資産”である。

利益剰余金は55億円超あるものの、今期は赤字+配当支払いで減少傾向。

借入金は約3億円と少なく見えるが、それは事業資金を内部流用している結果であり、実際の資金余力は見かけほど強くない。

株主構造と支配体制

株主 持株比率
松谷昌樹(代表取締役社長) 20.8%
株式会社ランドコーポレーション 10.4%
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 6.8%
加藤誠悟 2.4%
海外機関(BNYM他) 約2.3%

松谷社長が個人および関連会社を通じて約3割を実質支配。

オーナー色の強い体制下で意思決定は迅速だが、牽制機能の欠如が課題。

配当継続や株主還元を優先する姿勢は評価できる一方で、

今のキャッシュフロー状況下では財務戦略として危うい

分析視点

  1. 営業キャッシュフローの崩壊
     ― 営業CFマイナス15億円は「単年度赤字」より重い事実。

  2. 資産構成の異常
     ― 現金ではなく出資金・棚卸が主成分。事業が止まれば即座に資金ショートへ。

  3. 自己資本比率の錯覚
     ― 高比率は安全ではなく、“動かない資産”の比率を示している。

  4. 再エネ投資の見かけ倒し
     ― 「カーボンニュートラル」名目での案件保有だが、実態は利益を生まないストック。

  5. オーナー支配とリスクの同居
     ― 意思決定は早いが、企業統治と透明性の両立が急務。


静かな数字が示す“構造的危機”

この中間決算は、単なる減収ではなく「資金が止まった企業」の典型だ。

売上は蒸発し、利益は消え、現金は動かない。

それでも高自己資本比率という幻影が“安定企業”を装っている。

ランドが今後生き残るためには、
① 出資金・棚卸資産の早期回収、
② 再エネ事業の実質収益化、
③ 財務構造の軽量化、
④ 経営統治の再設計――

この四つを同時に進めるしかない。

表面上は静かだが、その沈黙の裏にあるのは資金の停滞と構造的危機である。

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