
― Wiz提携で営業力を得た“調査会社”が、コンサル企業へ進化できるか ―
■ 企業概要
株式会社MS&Consulting(本社:東京都中央区、代表取締役社長 辻秀敏)は、顧客満足度覆面調査「ミステリーショッピングリサーチ(MSR)」を基幹とし、従業員満足度調査「tenpoketチームアンケート」やコンサルティング支援を行う企業である。
創業以来、外食・小売業など“現場主義産業”の体験品質を可視化するプロ集団として、全国のチェーン店舗を中心にストック型リサーチを提供。
その継続率は90%と高く、安定した収益基盤を築いてきた。
しかし、コロナ禍で主力顧客が打撃を受け、業績は急減速。
同社は2024年度から「コンサル×DX」への転換を掲げ、2025年上期には営業提携を軸とした再成長戦略に踏み出した。
第14期中間決算サマリー(2025年3月〜8月)
指標 | 前年同期比 | 金額(千円) |
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売上収益 | +12.1% | 1,243,025 |
営業利益 | ―(黒字転換) | 68,924 |
税引前利益 | +42.6% | 68,358 |
親会社株主に帰属する中間利益 | +121.4% | 52,213 |
総資産 | +3.5% | 3,497,373 |
純資産 | +5.8% | 2,702,014 |
営業CF | ▲19.4%(流入減) | 140,845 |
現金残高 | +40.3% | 731,478 |
1株利益(EPS) | +113.4% | 12.48円 |
売上・利益ともに回復基調にあり、黒字転換を果たした。
特に粗利率改善(原価率74.8%→68.9%)が利益押上の主因で、コスト構造改革が奏功している。
事業別分析
「覆面調査」復調とSaaS事業の踊り場
主力のMSRは前期比+17.4%増と大幅に伸長。
通常調査案件の消化が順調に進んだ一方で、海外調査案件の一部は期ズレにより未反映。
SaaS部門は▲14.0%減。
外食向け日次決算システム「bino」終了の影響が響いた。
一方、「チームアンケート」は堅調で、リピート顧客率が高い。
コンサルティング分野は+7.6%増。
若手人材の育成と補助金支援サービスの拡大(+82.7%)が寄与した。
“従来型調査+データ連動コンサル”の融合が進む一方で、
SaaS事業の再定義が次の焦点となる。
Wizとの資本業務提携
営業力の外部注入
2025年4月、同社はDX支援企業Wiz(ウィズ)と資本業務提携を締結。
自己株式21万2400株(持株比率約5%)をWizに割当て、さらに2025年10月には新株予約権(最大53万株)を発行した。
Wizは全国6万店舗超の取引先を持ち、Wi-Fi、POS、キャッシュレス決済などの店舗DX導入を支援する企業。
強い営業網と店舗向け商材の販売ネットワークを有する。
この提携により、
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MS&Consulting:高い顧客調査ノウハウ(商品力)
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Wiz:全国販売力(営業力)
を掛け合わせ、送客・顧客体験DXの統合支援モデルを構築する。
提携後は、Wiz社長の山﨑氏が取締役に就任し、共同営業・顧客紹介契約を正式に開始した。
財務構造
キャッシュリッチだが「人材投資先行型」
現金・預金は7.3億円と潤沢で、自己資本比率は78%。
一方、無形資産(のれん+ソフトウェア開発費)比率が高く、人的リソース投資が利益に転化するまでの時間差が課題。
営業CFは14億円流入(前年比▲19%)。
法人税支払い増とリース債務返済が影響したが、財務的余力は十分。
今後の課題は、人材投資→収益化までの“間”をどう埋めるかに尽きる。
投資家の視点
株価は低迷、だが再評価余地あり
2025年10月現在、同社株価は400円前後で推移。
直近1年では300〜500円レンジで停滞しており、PERは約32倍、PBRは1.0倍前後と中小SaaS銘柄としては中立圏。
だが、以下の2つの要素が市場再評価のカギとなる。
1️⃣ Wiz連携による営業収益の上振れ効果(2026年2月期後半から顕在化)
2️⃣ 新株予約権発行による資本増強→成長投資拡大
希薄化リスク(最大5%強)は限定的であり、長期投資家にとっては“調査業から顧客DX支援企業”への変貌を先取りする局面とも言える。
MSRの枠を超え、“人を変える企業”へ
MS&Consultingの決算は、一見地味だが構造的な変化を含んでいる。
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コロナ後に収益基盤を回復
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コスト構造を改善
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提携による営業力を獲得
同社の本質は、「顧客満足度」ではなく「人の行動変容」にある。
覆面調査という単発業務から、店舗オペレーションDX・人材エンゲージメント支援へ。
そこに“データを資産とする企業”への道筋が見える。
株価がそれを織り込むのは、まだこれからだ。
Wizとの提携が単なる販路拡大に終わらず、「顧客体験価値を科学する企業」へ進化できるか──
その答えが、次期本決算に問われる。