ミスターマックスHD──“安さの次”を描く、信頼価格戦略

― 値下げではなく“信頼価格”を売る企業へ。株価は再評価の地平へ ―

 企業概要

株式会社ミスターマックス・ホールディングス(本社:福岡市東区、代表取締役社長 平野能章)は、九州を拠点に全国展開する総合ディスカウントストアチェーンを運営する企業である。

「普段の暮らしをより豊かに、より便利に、より楽しく」という理念を掲げ、生活必需品から家電、食品、日用品までをカバーするワンストップ型店舗を展開。

業界ではいち早く「EDLP(エブリデイ・ロープライス)」戦略を打ち出し、一過性の値引きではなく、常時低価格・常時信頼価格による集客力を武器としてきた。

その価格訴求力は、インフレが常態化する2025年において“生活防衛インフラ”としての存在感を増している。

第77期中間決算サマリー(2025年3月〜8月)

指標 前年同期比 金額(百万円)
営業収益 +8.1% 74,770
営業利益 +25.1% 2,807
経常利益 +29.7% 2,911
中間純利益 +30.2% 1,895
総資産 +7.9% 89,292
純資産 +6.4% 37,252
自己資本比率 +1.3pt 41.7%
営業CF ▲65.7% 1,316
投資CF ▲173.4% ▲1,914
現金残高 ▲40.6% 2,953

売上・利益ともに過去最高を更新。
増収増益基調を維持しながらも、運転資金需要増加によりキャッシュフローは圧縮
物価高を味方に変え、利益体質を強化する構造転換期にある。


 業績分析

“値下げ”ではなく“価格信頼”で勝つ

売上高は720億円(前年同期比108.3%)と、過去最高を記録。

注目すべきは、その成長の質である。

  • 米騒動への迅速対応:備蓄米を独自調達し、品薄の中で供給を維持。
     銘柄米から備蓄米まで幅広く揃え、価格上昇局面で逆に販売を伸ばした

  • 物価高対応の値下げ企画:衣料洗剤、ペットフード、加工食品など、生活直結カテゴリを強化。

  • 新型Switch効果:任天堂新ハード発売に伴い、関連周辺機器の販売も好調。

プライベートブランド(PB)では家電の自社専用モデルが好調。

エアコン・冷蔵庫・洗濯機などの大型家電を軸にPB売上比率23.6%(+2pt)へ上昇。
利益率の改善に直結した。

既存店売上高は107.0%と堅調。

ディスカウントストアという業態が“物価高局面の受け皿”として再評価されている。

コスト構造の最適化

セルフ化とデジタル効率の追求

賃金上昇や物流コスト増が続く中、同社はEDLC(エブリデイ・ローコスト)戦略を徹底。

  • セルフレジの普及により、作業時間の増加を抑制。

  • キャッシュレス化対応の手数料増加を吸収するため、購買データ分析による店舗最適化を進行。

  • 減価償却費増加(+11%)は新規出店・改装投資によるもので、 「支出」ではなく「攻めの投資」に分類される。

結果、販売費および一般管理費は159億円(前年比+6.0%)と増加したが、営業利益率は3.8%(+0.4pt)に改善

効率と成長を両立させる店舗オペレーションが定着しつつある。

財務構造

借入増加は“攻めの流動性”

現金残高は29億円と減少したが、これは出店・在庫積み増しに伴う資金需要増によるもの。

一方で短期借入金・長期借入金を合わせて約12億円増やし、流動性を確保しつつ成長投資に振り向けた構造。

自己資本比率は41.7%、固定長期適合率は約90%と健全水準を維持しており、ディスカウント企業としては異例の安定バランスシートを持つ。

財務レバレッジを活用しながらもリスクを抑える運営方針がうかがえる。

株主還元と株価動向

配当は年23円(前年18円)に増配。
中間配当を継続しつつ、配当性向40%前後を目安に株主還元を強化している。

株価は2025年10月時点で1,350〜1,400円台で推移。

PBR 0.9倍、PER 約12倍と、地方ディスカウント銘柄としては依然割安水準にある。

インフレが続く環境下で、
・安定した生活防衛需要
・PB比率上昇による利益構造の改善
・増配姿勢の明確化

これらを踏まえると、中長期での再評価余地は大きい

EDLPモデルの進化形、“ディスカウント2.0”へ

ミスターマックスは単なる「安売り店」ではない。

今期決算が示すのは、「生活に信頼される価格ブランド」への進化である。

  • 物価上昇を機に、価格の信頼性がブランド価値に直結

  • PB化と効率化により、粗利率を上げながら価格を下げる構造

  • 借入を恐れず、出店と改装で攻める成長路線

投資家にとって注視すべきは、次のステージである「デジタル×ローコスト」の融合。

購買データ、物流効率、セルフ化などの仕組みを統合し、同社は“リアル店舗のアルゴリズム企業”へと進化する可能性を秘めている。

「価格ではなく、信頼を売るディスカウント企業」
その姿が、九州から全国に広がりつつある。

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