UBSがMipox株を5.04%保有

スイス資本が狙う“精密研磨”の未来

報告書が示す事実

2025年10月22日、**UBS AG(ユービーエス・エイ・ジー/スイス銀行)**およびその関連会社が、Mipox株式会社(証券コード5381、東証スタンダード上場)株式の5.04%を共同で保有していることが明らかになった


報告義務発生日は10月15日、保有株数は728,900株

その内訳は次の通りだ。

  • UBS AG(銀行本体):218,900株(1.51%)

  • UBS Switzerland AG:510,000株(3.53%)

報告書によれば、両社の保有目的は「中期的なディーリング目的による保有」であり、ヘッジ・裁定・機関運用の要素を併せ持つ機動的ポジション構築であることが読み取れる。

UBSという巨大資本の正体

UBSは1872年に設立されたスイス最大の金融グループであり、世界有数のウェルスマネジメント(資産運用)銀行として知られる。

日本法人(代表:山田真資氏)は東京都千代田区大手町の「Otemachi Oneタワー」に本拠を置き、グローバル投資銀行業務、資産運用、トレーディングを展開している。

同社の日本市場における投資戦略の特徴は、

  • 短期取引(ディーリング)と長期運用の併用

  • 高流動性銘柄だけでなく、中小型“テック製造業”への注目

  • スイス本国のプライベートバンク資金の導入ルート

であり、特に最近は「中堅メーカーの技術力を資本面から支援するESG型ポジション」を構築する動きが強まっている。

Mipoxという企業の特殊性

Mipoxは、栃木県宇都宮市に本社を置く精密研磨フィルム・研磨装置メーカー

半導体・HDD・光学部品・電子材料といった極めて精密な表面処理を必要とする分野で高い技術を有しており、日本の“磨く技術”の象徴的企業でもある。

近年では、

  • EV・AIサーバー向け電子基板用研磨技術

  • 再エネ用シリコンウエハー加工フィルム

  • 医療機器・化粧品分野への精密表面技術応用
    といった事業を展開し、グローバル市場でのニッチトップ地位を固めつつある。

このような企業構造は、UBSの長期テーマ「産業再生とクリーンテックの融合」と親和性が高い。


取引構造

貸株・借株ネットワーク

報告書によると、UBSグループは内部および外部機関投資家と以下のような株券貸借を行っている。

  • 機関投資家1名に26,600株貸株

  • 機関投資家1名から46,400株借株

  • UBS証券株式会社に100株貸株

  • UBS Switzerland AGは別途、機関投資家2名に258,800株貸株し、同量を借り戻している

このようなネットワーク構造は、短期的な裁定取引と中期的なヘッジ運用の両立を目的とするUBSの典型的手法である。

同時に、スイス本国と日本市場を接続する「クロスボーダー流動性供給構造」の一端を示している。

スイス資本の狙い

“磨く技術”が支える新産業

なぜUBSが日本の精密研磨メーカーに注目するのか。

その背景には、脱炭素社会における材料科学の再評価がある。

半導体・EV・AI・量子コンピューティング――これら最先端産業の根底には「ナノレベルで表面を整える技術」が不可欠だ。

Mipoxが持つ研磨フィルム技術は、まさにその基盤であり、

  • ESG投資の文脈で言えば「エネルギー効率を高める隠れた環境技術」

  • 産業政策的には「日本のマイクロ加工分野の生命線」

として、世界の投資資本から再評価されている。

UBSはこうした“地味だが不可欠な技術企業”を重点的に拾う傾向があり、「日本の隠れた技術遺産」への資本流入が進んでいる。

視点と論点

地方製造業への外資回帰

宇都宮を拠点とするMipoxのような中堅企業に、欧州資本が入る動きは「地方×先端技術」の新しい資本連携モデルといえる。

金融と技術のクロスオーバー

UBSが進める「金融資本×産業技術」の融合戦略は、従来の短期トレードとは異なる“産業参画型投資”へと進化している。

日本市場の再評価

欧米資本の一部は、政治リスクを抱える中国を避け、日本の技術中小企業を「サプライチェーンの安定拠点」として再評価している。

“研磨技術”は静かに世界を支える

UBSによるMipox株5.04%保有は、数字以上の意味を持つ。

それは、世界の産業構造の基盤を支える「磨く技術」への長期信頼の表明だ。

静かなスイス資本が、日本の地方企業の株式を握る――。

その光景は、グローバル資本主義が“本質的な技術”へ回帰しつつあることを象徴している。

──時代は再び、「ものづくりの深度」へ向かっている。

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