
米大手長期資本が狙う“ペイント・インフラ”の再評価
第1章 報告書が示す事実
2025年10月22日、米ロサンゼルスを拠点とする世界的投資顧問会社、キャピタル・リサーチ・アンド・マネージメント・カンパニー(Capital Research and Management Company)が、中国塗料株式会社(証券コード4617)株式を6.14%保有していることが明らかになった。
報告義務発生日は10月15日で、保有株数は3,378,100株。
報告書は特例報告(大量保有報告書の簡略版)として提出され、同社を中心とするキャピタル・グループ4社の共同保有となっている。
その内訳は以下の通り。
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キャピタル・リサーチ・アンド・マネージメント・カンパニー(米ロサンゼルス) … 2,632,900株(4.79%)
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キャピタル・インターナショナル・インク(米ロサンゼルス) … 258,500株(0.47%)
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キャピタル・インターナショナル・サール(スイス・ジュネーブ) … 167,000株(0.30%)
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キャピタル・インターナショナル株式会社(東京) … 319,700株(0.58%)
これらを合算すると6.14%に達し、同社は事実上の主要海外機関投資家となった。
キャピタル・リサーチとは?
キャピタル・リサーチは、米国最大級の運用会社「キャピタル・グループ(The Capital Group Companies, Inc.)」の中核を担う企業。
1940年設立、運用資産は世界で約2兆ドル(約300兆円)を超え、ロング・オンリー(長期投資)型資本として高い信頼を誇る。
同社は「アメリカン・ファンド(American Funds)」ブランドで知られ、
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徹底した企業調査と長期保有
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株主価値向上を目的とする経営陣との対話
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世界中の優良企業への分散投資
を基本方針とする。
この方針はいわゆる「短期アクティビスト」とは一線を画し、経営の“伴走者”としての資本行動を特徴とする。
中国塗料の現在地
中国塗料株式会社は1918年設立、日本塗料業界の草分け的存在である。
造船・自動車・建設・重工業向けの塗料を主力とし、アジア・中東・アフリカ地域を中心にグローバル展開している。
とりわけ同社は、
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海洋防汚塗料(船底塗料)分野での世界シェア上位
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防食・防錆分野における環境対応型塗料
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アジア地域の製造・販売ネットワークの強さ
を武器に、「船舶・インフラ塗料の国際サプライヤー」としての地位を築いている。
しかし、造船・物流市況の変動や原料価格高騰を背景に収益が伸び悩み、PBR(株価純資産倍率)は1倍を下回る状態が続いていた。
キャピタル・リサーチの参入は、こうした“資本市場での過小評価”に対するバリュー再発見の動きと見られる。
共同保有構造
日米スイスを跨ぐ長期資本ネットワーク
今回の報告書では、米・スイス・日本に分散するキャピタル・グループ4社の連携が明示されている。
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米国本社(ロサンゼルス) … 世界的ファンドマネジメントの中心
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スイス法人(ジュネーブ) … 欧州機関投資家との資金連携拠点
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日本法人(丸の内) … アジア市場の運用支援・リサーチ拠点
この構造は、同グループがグローバル資本の中で「日本株を長期テーマとして位置づけている」ことを示す。
実際、キャピタル・グループは2020年代以降、日本市場への投資を拡大しており、トヨタ自動車、HOYA、オリエンタルランドなどの主要株主にも名を連ねている。
視点と論点
“ペイント・インフラ”への再注目
世界の建設・海運市場では脱炭素対応を背景に、防錆・防汚・環境対応塗料が新たな成長テーマとなっている。
キャピタル・リサーチの投資は、この構造変化に対する早期ポジション形成とみられる。
外資資本による地方製造業再評価
中国塗料は横浜を拠点としつつ、アジア各国に製造・販売網を展開。
米欧ファンドがこうした“地域密着型の日本製造業”に注目する動きが加速している。
アクティビストではない「長期支援型資本」
キャピタル・リサーチは敵対的関与を否定し、経営陣との対話を通じて企業価値向上を促す。
これは「外資=圧力」という構図を超えた、協働的アクティビズム(constructive stewardship)の典型だ。
“静かな巨人”が見据える日本製造業の未来
キャピタル・リサーチによる中国塗料株6.14%保有は、単なる数字の報告ではない。
それは、世界の長期資本が再び日本の製造業を信頼し始めたサインである。
海運・造船・インフラという“古典的産業”の中に、環境対応・技術革新・アジア市場拡大という新しい成長軸を見いだす。
この視座こそが、米キャピタル・グループという“静かな巨人”の真価であり、同社が日本市場に残した足跡は、やがて「持続可能な資本主義の日本的実験」として評価されることになるだろう。

