Axium Capital、フォスター電機株を15.92%へ引き上げ

 取得も処分も高速回転。シンガポール資本が見せる“信用取引ベースの攻勢”の正体

シンガポールの Axium Capital Pte. Ltd. が、フォスター電機(6794)の保有比率を 15.33% → 15.92% に引き上げた。

今回提出されたのは「変更報告書No.8」。

変更理由は 「担保契約等重要な契約の変更」

一般的な「買い増し」より、むしろ 信用取引・差し替え・回転 による特殊な保有構造変更が中心となっている。

変更報告書の中身を精査すると、単なる“保有増”とは到底呼べない。

そこには、
市場内外を駆使した高速売買信用取引による巨大ポジションの構築 が同時に進められている。

Axium Capitalとは

Axium Capital は 2025年1月設立の新興運用会社だ。

所在地はシンガポールの金融中枢「Marina One West Tower」。

代表者は門田泰人 CEO。アジア圏における機関投資家ネットワークに近い属性を持つ。

事業内容は “投資運用業”。

しかし、これだけでは説明できない特徴がある。

  • 市場への出現は2025年以降

  • 投資主体として極めて新しい

  • 日本大型製造株をターゲットにしている

  • 信用取引を積極活用する“レバレッジ型の運用構造”

つまり、PEファンドでもヘッジファンドでもない、特殊なハイブリッド運用主体 と読み取れる。

“純投資”と記載されているが、現実には 裁定・回転・信用を用いた需給主導の投資手法 を取っている。


驚異の高速回転

市場内外を行き来する“同日処分・同日取得”

最近60日間の取引履歴を確認すると、Axiumの行動は異例だ。

象徴的なのは、以下の反復的な売買。

● 10月10日

  • 市場外で 350,000株を処分

  • 同日に 350,000株を市場外で取得(単価2,280円)

● 10月22日

  • 市場外で 300,000株を処分

  • 同日に 300,000株を市場外で取得(単価2,340円)

● 11月11日

  • 市場外で 350,000株処分(単価2,300円)

  • 同日に 350,000株取得(同2,300円)

これは明らかに、ポジション調整・信用担保差し替え・関連口座間での株式移管といった行為を示している。

普通の機関投資家は、同日に売却と取得を同数で行わない。

しかし Axium はこれを何度も繰り返している。

これはすなわち、

フォスター電機株を“流動性の核”として扱い、
レバレッジ運用の基礎資産として活用している

という構造だ。

信用取引による“実質1,590,000株”という異質な保有

今回の変更報告書の核心はここだ。

提出書にはこう書かれている。

  • 信用取引による取得:立花証券 1,590,000株

  • 信用取引保証金代用有価証券:立花 266,600株、フィリップ証券 107,100株

つまり、
Axiumのフォスター電機保有は 現物保有+信用買い+保証金代用 の三層構造になっている。

これは、
自社資金ではなく、顧客資金+信用(レバレッジ)を組み合わせた高度な運用 であり、実質的には数千万株分の“ポジション操作余地”を手にしていることになる。

取得原資の内訳を見ると、

  • その他金額(顧客資金) 5,089,926千円

  • うち信用取得分:3,630,000千円

自社資金による取得は確認できず、完全に 顧客資金+レバレッジ を使ってポジションを構築している。

これは「長期保有」とは正反対の構造である。

なぜフォスター電機なのか

フォスター電機は、イヤホン・スピーカーなど音響部品の製造で知られる企業だが、その本質は グローバルOEM供給企業 であり、業績は景気に左右されやすい。

Axiumがフォスター電機を選ぶ理由は次の3点に集約される。

● ① ボラティリティ(価格変動)が高い

高速回転・信用取引との相性が抜群。

● ② 株価が“動く余地”を残したまま推移

過小評価と過大評価を行き来する銘柄特性がレバレッジと噛み合う。

● ③ 発行株式数が多く、信用残を増やしやすい

2,500万株規模の発行済株式数は、レバレッジ運用者が最も扱いやすい。

Axiumの思惑は「フォスター電機株を基軸に、信用を利かせた収益源を作ること」であり、経営への関与を目的としたアクティビスト行動ではない。

論評

日本市場の“信用規律の緩さ”を突いた典型例

今回の変更報告書は、日本市場の制度的な盲点を突く投資行動 を示している。

  • 現物+信用+代用証券を組み合わせて巨大ポジションを作る

  • 同日売買で担保調整を繰り返し、取得比率をコントロールする

  • “純投資”としつつ、実態はレバレッジ裁定

  • 新興運用会社でも、制度を理解すれば15%保有が可能

フォスター電機は安定企業のイメージが強いが、株主構造の面から見ると、信用取引を駆使する海外資本に“深く侵食されている”状況 と言える。

経営に直接介入するアクティビストではない。

しかし、
市場需給を左右する“レバレッジ型の巨大投資主体”が株主名簿に入り込んだという事実は重い。

この種の投資主体は、価格が動けば即座に売買に転じるため、

フォスター電機の株価は今後、業績以上に「信用需給」で揺れ動く危険性
を抱えることになる。

日本市場は、こうした“信用取引を用いた準ヘッジファンド型資本”を想定したガバナンス体制を未だ持たない。

今回のAxiumの動きはその弱点を正確に突いている。

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