アバールデータ株11.69%、英国Goodhartが示した静かな増資圧力

「FPGA×組込み」の精鋭企業に仕掛けた静かな増資圧力

アバールデータ(6918) の株主構造に、目に見えない“重し”が加えられた。

英国ロンドンの投資運用会社 Goodhart Partners LLP が、同社株を 10.48% → 11.69% へ引き上げた。

保有株数は 744,200株(p.3)で、発行済株数 6,367,842株に対して 11.69% を占める。

上場区分は東証スタンダード。

市場規模としては大企業ではないが、高度なFPGA技術・画像処理・高速計測の精鋭企業として産業用では無視できない存在である。

その企業の株を、なぜ今、英国資本が拾い始めているのか。

Goodhart Partners

“巨大ではないが強い”英国の独立系運用会社

提出書(p.2)によれば、Goodhart Partners は

  • 英国ロンドン(WC2R 0LT)所在

  • 設立:2009年1月19日

  • 代表者は Peter Taylor

  • 事業は「投資運用業」
    というプロフィールが示されている。

巨大ファンドではないが、英国機関投資家の中では「質の良い中小型株に強い」「構造的成長に賭ける」という評価の高い運用会社だ。

彼らの投資スタイルは典型的である──

  • 事業の解像度が高い

  • 中小型でも強固な技術力を持つ企業を好む

  • ガバナンスや資本効率も一定基準で評価

  • “本当に良い企業”だけを長期保有

今回のアバールデータへの投資は、まさにこの文脈に当てはまる。

売りはあれど買いは報告外

それでも比率は増えた“特殊な構造”

今回もっとも特徴的なのは、提出書に「60日間の売却履歴」だけが記載されていることだ(p.3)。

一覧にはこうある。

  • 9/30 2,900株処分

  • 10/1 2,700株処分

  • 10/2 9,700株処分

  • 10/3 5,300株処分

  • 10/21 3,200株処分
    ……など、11月28日まで連続的に「売り」が続く。

通常、このような処分履歴が続けば保有比率は低下する。

しかし実際には10.48% → 11.69%へ1.21%増加している(p.3)。

これは、

「開示対象外の取引(=報告義務に該当しない10万株未満の複数取得)」が行われたか、「約定方法上、市場内の連鎖買いが積み上がった」

という構造が示唆される。

大量保有報告制度は“取得・処分が一定基準を超えた場合のみ”開示されるため、水面下での買い集めは完全に捕捉できない。

結果として「売ったように見えて、実はポジションが増えている」という、機関投資家特有の蓄積構造が現れたといえる。

なぜアバールデータなのか

“FPGA×高速処理”という世界的希少技術

アバールデータは、汎用企業ではない。

FPGAを核とした高速映像処理、信号処理、産業機器向け組込みシステムといった超ニッチ領域で事業を展開している。

この技術は、

  • 半導体装置

  • 工場自動化(FA)

  • 防衛・宇宙

  • 医療用画像処理

  • 高速マシンビジョン

といった成長産業のど真ん中に位置する。

海外の中小型投資家からすると、日本企業の中で「非常に過小評価されているハイテク・ニッチ企業」として映る。

Goodhart が評価したと考えられるポイントは以下の通り。

① 業界構造自体が強固(参入障壁が高い)

FPGAは設計ノウハウ・顧客要件・リアルタイム処理技術が複雑で
代替が極めて難しい

② 大企業と異なり、技術決定が早い

技術者主導の会社は、海外機関投資家にとって“伸びしろが分かりやすい”。

③ 市場規模は小さい → 外資が少量買うだけで需給が変わる

ここに、海外中小運用会社が好む“効き目の強さ”がある。

11.69%という数字

筆頭株主級の存在に近づく

11.69%という比率は、中小型銘柄において“影響力の閾値(いきち)”に相当する。

提出書では重要提案行為は「該当なし」とある(p.2)。

しかし、これは 「今は行わない可能性が高い」 というだけで、将来の働きかけ余地が完全にゼロではない

特に11%超を保有する外国機関投資家は、

  • 経営陣との非公開対話(サイレントエンゲージメント)

  • ガバナンス改善要求

  • 事業ポートフォリオの見直し

  • 財務体質の強化提案

といった活動を“極めて静かに”行う。

つまり“アクティビストではないが、存在自体が圧力となる株主”という立ち位置を持ち始めたといえる。

論評

日本の技術企業が“外資の目利き資本”に救われる皮肉

今回のGoodhartの行動は、日本市場が抱えるある構造問題を露呈している。

① 日本市場の「技術系スモールキャップ」軽視

国内投資家は大型株やテーマ株に偏り、成熟だが高技術を持つ企業を評価しない傾向がある。

② そこに海外の“質の良い中型ファンド”が入る

Goodhartのようなファンドは本当に価値のある中小企業を拾いに来る。

③ 少量の資金で企業の未来を左右できる構造

発行株の少ないスタンダード銘柄は、外資が1%増やすだけで需給が大きく変わる。

④ 海外資本が“企業評価の基準線”を決め始める

今回の件は、「日本企業が日本市場で正しく評価されない場合、外資が正しく評価してしまう」という皮肉な現象の象徴だ。

アバールデータは、技術・競争力ともに国際優位性があるにも関わらず、国内では投資家層が薄い。

だが逆に言えば、今回の11.69%取得は、同社が“外資の本格的再評価ステージ”に入った合図ともいえる。

結論

Goodhart Partners がアバールデータ株を11.69%まで積み増したことは、単なる外国人買いではない。

  • 技術的優位性

  • 市場の過小評価

  • グローバル産業トレンド

  • 外資の中小型戦略

  • 日本市場の構造的盲点

これらすべてが交差した結果である。

アバールデータは今、“海外の本物の長期運用者のテーブル” に置かれた。

これは企業にとってチャンスであり、同時に厳しい監査でもある。

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