
転換社債と現物を組み合わせた“踏み込み型アクティビズム”の狙い
2025年12月、東証上場の 株式会社フェローテック(6890) を巡り、明確に一線を画す大量保有報告書が提出された。
提出者は、ケイマン諸島を拠点とするアクティビストファンド オアシス・マネジメント・カンパニー・リミテッド。
同社は、現物株式と新株予約権付社債(CB)を組み合わせる形で、合計403万8,389株相当、保有割合8.50%に達したことを明らかにしている。
8.50%──。
これは、日本市場において「様子見」では済まされない水準だ。
しかも今回は、単純な現物買いではなく、将来の持分拡張余地を残した設計が組み込まれている。
オアシスというプレイヤーの“型”
オアシス・マネジメントは、過去の日本市場においても一貫して、
-
割安に放置された企業
-
資本効率やガバナンスに改善余地のある企業
-
経営と株主の利害が乖離している局面
に対し、はっきりと「提案を前提」に入ってくるアクティビストだ。
今回の大量保有報告書でも、保有目的は明確に、
「ポートフォリオ投資および重要提案行為」
「株主価値を守るため、重要提案行為を行うことがある」
と記載されている。
これは形式的な文言ではない。“条件が整えば踏み込む”という宣言に等しい。
注目すべきは「現物+CB」という構造
今回の取得内訳を見ると、オアシスの本気度が透けて見える。
-
現物株式:362万900株
-
新株予約権付社債(CB):41万7,489株相当
-
合計:403万8,389株
-
発行済株式総数(4,711万7,949株)に対し:8.50%
特に重要なのは、CBのうち417,489株分は“取得オプション”であると明記されている点だ。
これは、
-
いきなり全額を現物で押さえない
-
企業の対応や市場環境を見ながら、持分を調整できる
-
交渉余地を残したまま影響力を確保する
という、極めてアクティビスト的な設計である。
なぜフェローテックなのか
論評社が重視するのは、なぜオアシスがこのタイミングでフェローテックを選んだのかという点だ。
フェローテックは、
-
半導体製造装置関連部材
-
パワー半導体・電子部品
-
中国を含むグローバル製造拠点
といった、産業的には“追い風のある分野”に身を置く一方で、
-
事業の複雑化
-
投資回収の見えにくさ
-
資本政策・株主還元への評価の低さ
といった課題も抱えてきた。
アクティビストの目には、「事業は悪くないが、資本の使い方が最適化されていない企業」と映る条件が揃っている。
市場外取引で一気に積み上げた意味
取得履歴を見ると、2025年12月10日に市場外で173万5,700株を一括取得(単価4,858円)している。
これに加え、市場内での追加取得も行われている。
この動きは、短期の需給狙いでは説明できない。
「価格交渉を含めた、事前調整型の参入」であり、すでに一定の対話、あるいは少なくとも問題意識を持っていた可能性が高い。
【論評】
8.50%は“圧力”であり、“交渉権”である
今回のオアシスの動きは、単なる「大株主入り」ではない。
-
8.50%という無視できない比率
-
現物+CBという柔軟な持分設計
-
「重要提案行為」を明記した保有目的
これらはすべて、フェローテック経営陣に対する明確なメッセージだ。
それは、「この会社は、現在の資本政策とガバナンスで本当に株主価値を最大化できているのか」という問いである。
オアシスは、いきなり要求はしない。
だが、要求できる位置には、すでに立っている。
フェローテックにとって、この8.50%は「支援」でも「敵意」でもない。
交渉の始点であり、経営の説明力が試される局面の到来を意味する。

