
新株予約権による“静かな支配”はどこまで通用するのか
2025年12月24日、関東財務局に提出された大量保有報告書により、香港の投資会社 Long Corridor Asset Management Limited が、株式会社アクアライン の株式等を 19.25% 保有していることが明らかになった。
保有目的は「純投資」、重要提案行為は「該当なし」。
書面上は整った開示である。
しかし、取得比率、新株予約権の使い方、株式貸借を含む取引構造を追うと、本件は単なる投資ではなく、将来の影響力行使を前提とした資本取引であることが見えてくる。
19.25%取得という異変
ロング・コリドーの直前の保有割合は 3.65% に過ぎなかった。
そこから一気に 19.25% へと跳ね上がっている。
この比率は、
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経営に対して無視できない存在感を持ち
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しかし形式上は支配責任を負わない
という、「準支配」ポジションに位置する。
市場内で偶然積み上がる数字ではなく、初めから狙われた水準と見るべきだ。
保有の事実関係
大量保有報告書の要点は以下の通りである。
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報告義務発生日:2025年12月22日
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提出日:2025年12月24日
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保有割合:19.25%
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保有数量:1,700,000相当
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保有目的:純投資
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重要提案行為等:該当なし
違法性を示すものではない。
だが、問題は「何を」「どうやって」持ったのかにある
ロング・コリドーとは
ロング・コリドー・アセット・マネジメントは、2018年設立の香港系投資運用会社で、アジア市場を中心に中小型上場企業への集中投資を特徴とする。
同社の投資スタイルを整理すると、次の点が浮かび上がる。
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伝統的なインデックス運用ではなく、アクティブ運用志向
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株価水準・時価総額・資本政策の歪みに着目
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経営に直接介入せずとも、資本構造に影響を与える位置取りを好む
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株式取得だけでなく、新株予約権・第三者割当・借株などを組み合わせる
いわば、「表では静か、構造では深く入り込む」タイプのファンドである。
香港系ファンド特有の戦略
香港を拠点とするファンドに共通する特徴として、
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日本の中小型株市場における
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ガバナンスの緩さ
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資本政策の柔軟さ
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新株予約権や第三者割当を活用しやすい制度環境
に着目するケースが多い。
ロング・コリドーも例外ではなく、「株を買う」のではなく「影響力を設計する」という発想で投資を行っていると考えられる。
アクアラインとはどんな会社か
では、なぜアクアラインだったのか。
アクアラインは、水回りの緊急修理・生活インフラ系サービスを主力とする企業で、全国対応型のコールセンター体制を軸に事業を展開してきた。
東証グロース市場に上場し、「生活密着型サービス」という分かりやすい看板を持つ一方で、事業構造は決して強固とは言えない。
特徴を整理すると、
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成長性に対する市場評価は伸び悩み
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株価は長期的に低位で推移
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時価総額は小さく、流動性も限定的
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外部株主の影響を受けやすい資本構成
つまり、「事業はあるが、株式市場での防御力が弱い」企業である。
なぜアクアラインだったのか
ロング・コリドーの視点に立てば、アクアラインは極めて合理的な投資対象だ。
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時価総額が小さく、一定の資金で影響力を確保できる
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株主構成が分散しており、支配線が明確でない
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経営陣に対する外部からの圧力耐性が弱い
この条件が揃えば、株を買わずとも、資本政策に入り込める余地が生まれる。
新株予約権という手法が選ばれた背景には、アクアライン側の「資本調達ニーズ」と、投資家側の「支配力確保」の利害が一致した構図がある。
株ではなく、権利
本件の中核は、普通株ではない。
ロング・コリドーが取得したのは 第2回新株予約権1,700,000個 だ。
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行使価格:1個30円
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取得方法:第三者割当
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市場外取引
これは現在の議決権を買ったのではなく、将来の希薄化を前提とした影響力を手にしたことを意味する。
行使が進めば、既存株主の持分は薄まり、ロング・コリドーの存在感は一段と増す。
設計された取得
さらに、この取引は単発では終わらない。
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株式貸借契約による40万株超の借入
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新株予約権の譲渡制限
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長期に設定された契約期間
これらを組み合わせることで、本件は
「偶然の大量保有」ではなく、「設計された資本介入」となっている。
レバレッジの正体
取得資金は自己資金ではなく、メリルリンチ・インターナショナル(ロンドン)からの借入(約5.1億円)で賄われている。
これは、
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高い資本効率
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中期的な回収を前提とした投資
を意味する。
長期保有を前提とした穏健な純投資とは、明らかに性格が異なる。
「純投資」は成立するか
書面上は「純投資」、重要提案行為は「該当なし」。
しかし、
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19.25%という比率
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新株予約権を中核とする取得
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株式貸借を含む複合スキーム
これらを総合すると、本件は「今は動かないが、いつでも動ける位置」を確保した状態と見るのが妥当だ。
経営陣への無言の圧力
大量保有報告書は、単なる事後報告ではない。
それは、経営陣に対する静かな意思表示でもある。
アクアラインの経営陣が、
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この資本構造の変化をどう受け止め
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誰の利益を優先するのか
その選択が、今後の企業価値を左右する。
論評
本件は、アクアライン一社の問題ではない。
新株予約権による影響力行使、第三者割当の柔軟運用、希薄化リスクの軽視。
これらは、日本のグロース市場が抱える構造的な脆弱性を象徴している。
支配と責任の間に存在する「準支配」というグレーゾーン。
この手法がどこまで通用するのか。
問われているのは、投資家だけでなく、市場そのものだ。

