
AI狂騒の裏側で進む、集中と歪みの臨界点
世界の半導体市場が、歴史的な転換点に差しかかっていることは間違いない。
市場規模は年率20%超で拡大し、数年内に1兆米ドル規模へ達するとの見方が市場を支配しつつある。
だが、単純な成長予測ではない。
「なぜ、ここまで一方向に加速しているのか」
「この成長は持続的なのか、それとも構造的な歪みを内包しているのか」である。
AIが半導体市場を“単線化”させている現実
現在の半導体需要を分解すると、成長の中核は極めて限定的だ。
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AIデータセンター向けGPU
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高帯域幅メモリー(HBM等)
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先端ロジックプロセス
自動車、PC、スマートフォンといった従来分野は回復基調にあるものの、市場全体を押し上げている主因ではない。
AI関連投資がなければ、ここまでの成長率は成立しない。
これは重要な意味を持つ。
半導体市場は今、「多産業分散型の成長市場」ではなく、AI投資に依存した単線構造へと変質している。
EPS急拡大の正体
半導体関連企業の利益成長は、確かに異常なほど強い。
来期にかけてEPSが40%超で伸びるとの見通しも珍しくない。
しかし、この数字を冷静に分解すると、違和感が浮かび上がる。
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売上・利益の増加は、特定企業に極端に集中
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高収益を生んでいるのは、参入障壁が異常に高い領域
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中下流・成熟分野との収益格差は拡大の一途
つまり、市場全体が底上げされているのではなく、「勝者だけが異常に強い」状態だ。
EPS成長=市場健全化、と短絡するのは危うい。
半導体市場に内在する「支配構造」
現在の半導体市場には、明確な特徴がある。
一部の銘柄が、市場全体のパフォーマンスを左右する。
これは偶然ではない。
AI半導体分野は、技術・資本・供給網のすべてにおいて参入障壁が高く、競争よりも寡占が合理的な構造になっている。
その結果、
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市場指数は好調
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だが、裾野は決して広がっていない
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システム上、一社の失速が市場全体に波及し得る
という、極めて脆弱な安定が形成されている。
AI投資は「需要」ではなく「意志」である
見落とされがちだが、現在のAI半導体需要は、自然発生的な消費需要ではない。
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巨大IT企業の戦略的CAPEX
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国家レベルのAI覇権競争
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将来像を先取りした“先行投資”
これらはすべて「意志」によって支えられている。
意志は、環境が変われば止まる。
金利、規制、地政学、AI倫理、電力制約──どれか一つでも前提が崩れれば、投資ペースは簡単に変わる。
次に起こり得るのは「過剰供給」という古典的結末
半導体産業は、歴史的にブームと崩壊を繰り返してきた。
現在は間違いなくブームの最中にある。
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巨額CAPEX
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生産能力の前倒し拡張
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需要の将来見込みを前提とした設備投資
この構図は、過去と驚くほど似ている。
違うのは「AI」という物語が強力すぎる点だ。
物語が強いほど、疑問は封じられる。
論評
1兆ドル市場という言葉が隠すもの
半導体市場は、今後も重要であり続けるだろう。
だが、重要であることと、安全であることは別問題だ。
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成長はしている
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しかし、その成長は極端に偏っている
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偏りは、いつか必ず歪みとして表面化する
「1兆ドル市場」という言葉は魅力的だ。
だがそれは、市場の健全性を保証する言葉ではない。
むしろ今は、楽観が最大化しているからこそ、構造を疑うべき局面にある。
この加速の裏側で進む「集中」「依存」「脆弱性」を、今後も継続して検証していく。

