
「売却」と「返還」の切り分けが示す交渉力の行方
2025年12月26日、関東財務局に提出された訂正報告書により、Oasis Management Company Ltd. が提出していたフジテックに関する変更報告書の一部内容が訂正された。
対象は、フジテック株式会社 株式の「短期大量譲渡」に関する記載および、貸株の扱いに関する重要契約の説明である。
訂正の主眼は、市場外での大口処分と、借株の返還(あるいは金銭決済)を明確に峻別することにある。
表面的には技術的な訂正に見えるが、その背後には、TOB(公開買付け)局面におけるアクティビストの交渉力と義務の整理が透けて見える。
訂正のポイント
訂正対象となったのは、直近60日間の取得・処分状況および担保契約等の記載だ。訂正前は、
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市場外処分:23,373,761株(29.62%)
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借株返還:2,856,000株(3.62%)
が並列的に記され、短期大量譲渡の文脈で読み取られ得る表現だった。
訂正後は、借株はGoldman Sachs Internationalとの貸借取引を金銭決済で解消した事実として整理され、実質的な「売却」とは切り分けて説明されている。
これは、TOB応募に伴う処分の実態を正確に示すための修正である
TOB応募契約の骨子
本件の中核は、オアシスがBospolder 1株式会社(EQTグループ傘下)による公開買付けに応募する旨の応募契約だ。主要条件は以下の通り。
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応募対象:23,373,761株
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公開買付価格:1株 5,700円
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対抗TOB条項:買付価格が15%超上回る場合に限り、一定の手続きを経て応募義務を免除
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議決権行使:本取引を支持する方向での行使義務(妨害・遅延の回避)
この設計は、価格の上積み余地を残しつつ、現行条件での成立を強く担保する内容だ。
貸株の解消
訂正報告では、Goldman Sachs Internationalから借り入れていた2,856,000株について、株券返還に代えて金銭決済で解消した事実が明記された。
これは、TOB応募に際してポジションを簡潔化し、契約義務の履行を確実にするための後始末と位置付けられる。
オアシスの立ち位置
オアシスは従来、フジテックに対してガバナンス改善を求める能動的株主として関与してきた。今回の訂正は、
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交渉局面の終了
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出口条件の固定化
を示すシグナルでもある。
同時に、対抗TOBが現れた場合の逃げ道(価格条件)を制度的に残している点は、最後まで交渉力を手放さない姿勢の表れだ。
「訂正」という名の整理が持つ実務的意味
訂正報告はしばしば軽視されがちだが、本件では市場解釈のズレを防ぐための重要な整流が行われている。
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短期大量譲渡の誤読回避
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借株と売却の明確化
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TOB応募義務の法的安定化
いずれも、取引成立を前提とした実務の完成度を高めるための修正だ。
論評
フジテックを巡る一連の動きは、アクティビズムの成否が最終的には契約条項と開示の精度に帰着することを示している。
価格、義務、逃げ道——それらを書面でどう固定するかが、出口の条件を決める。
今回の訂正は、単なる誤記修正ではない。
交渉を終わらせ、決済へ進むための最終調整であり、アクティビストが市場から退場する際の“作法”を示す一例と言える。

