
新株予約権が示す「金融資本による研究開発支配」の構造
2026年1月9日、関東財務局に提出された大量保有報告書により、オーストラリアの金融大手 Macquarie Bank Limited が、東証グロース上場の 株式会社ペルセウスプロテオミクス の株式等を 20.36% 保有していることが明らかになった。
本件の特徴は、単に「20%を超える大株主が現れた」という点にとどまらない。
保有の大半が 新株予約権(第29回) によって構成されており、株式ではなく“希薄化のスイッチ”を握る形で影響力が設計されている点に、この案件の本質がある。
これは、バイオベンチャーに対する金融投資というよりも、金融資本が研究開発企業の資本政策に深く入り込む典型例と見るべき事案だ。
20.36%という数字が持つ現実的な意味
20%超という保有割合は、形式上は支配株主に該当しない。
しかし実務的には、
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経営陣が無視できない発言力
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他の株主構成を事実上規定する影響力
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資本政策の選択肢を大きく左右する立場
を意味する。
特に本件では、
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普通株式:73,000株(ごく少数)
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新株予約権:3,680,000株相当
という構成になっており、現在の議決権よりも「将来の議決権」を支配する形でポジションが組まれている。
これは、
「今は口を出さないが、いつでも資本構造を変えられる」
という、極めて強い立場だ。
大量保有報告書から見える事実関係
提出書類に基づく主な事実は以下の通りである。
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報告義務発生日:2026年1月5日
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提出日:2026年1月9日
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提出者:Macquarie Bank Limited
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発行体:株式会社ペルセウスプロテオミクス
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保有株券等の総数:3,573,000株相当
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保有潜在株式数:3,680,000株
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株券等保有割合:20.36%
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取得手法:
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普通株式(貸借):73,000株
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第29回新株予約権:3,680,000株(1個81円)
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保有目的:純投資
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重要提案行為等:該当事項なし
形式的には「純投資」とされているが、取得手段と比率の組み合わせは、明らかに戦略的だ
マッコーリー・バンクとは
マッコーリー・バンクは、世界的に見ても特異な存在だ。
同社は単なる投資銀行ではなく、
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インフラ・再エネ・不動産
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オルタナティブ資産
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高度な金融工学を伴う投資
を得意とし、「事業に入る」のではなく「金融構造に入る」ことを最大の強みとしてきた。
マッコーリーの投資では、
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新株予約権
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転換社債
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派生的な権利設計
が頻繁に用いられる。
それは、事業の成功・失敗よりも、資本構造そのものからリターンを取りにいく発想に基づく。
今回のペルセウスへの関与も、この延長線上にある。
ペルセウスプロテオミクスという「金融が入りやすい器」
ペルセウスプロテオミクスは、抗体医薬を中心とした創薬ベンチャーであり、
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研究開発に長い時間と資金を要する
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直近の収益より将来価値が重視される
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継続的な資金調達が前提となる
という、典型的なバイオ企業の構造を持つ。
このモデルは裏を返せば、
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新株発行
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新株予約権
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希薄化
が常態化しやすいことを意味する。
つまり、資本政策に精通した金融機関にとっては「設計可能な企業」になりやすい。
なぜマッコーリーはペルセウスを選んだのか
マッコーリーの視点に立てば、ペルセウスは極めて合理的な対象だ。
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希薄化を前提とした資金調達構造
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株価水準が金融設計に組み込みやすい
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経営が外部資本に依存せざるを得ない
結果として、
株主というより、資本政策の共同設計者
に近い立場を確保できる。
これは、研究開発の中身に賭ける投資というより、「資金需要が継続すること」自体に賭ける投資とも言える。
「純投資」という説明の限界
書面上の保有目的は「純投資」、重要提案行為は「該当なし」。
しかし、
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20%超の潜在的影響力
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新株予約権中心の構成
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投資銀行という取得主体
これらを踏まえれば、一般的な純投資と同列に扱うことはできない。
実態としては、
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経営に直接口を出さず
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しかし資本政策を通じて間接的に支配する
金融主導型の関与モデルに近い。
論評
本件は、ペルセウス一社の問題ではない。
グロース市場全体が抱える、
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希薄化前提の成長モデル
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金融機関に有利な資本設計
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一般株主が見えにくい支配構造
を、非常に分かりやすく示している。
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表向きは分散株主
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実態は潜在株式を握る金融主体
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経営は常に資金調達と希薄化の選択を迫られる
この構造が続く限り、研究開発型企業の主導権は市場ではなく金融側に傾きやすい。
マッコーリーの 20.36% は、単なる持株比率ではない。
それは、バイオベンチャーと金融資本の力関係を可視化する数字である。

