アヤル・ファーストがコーエーテクモHD株9.30%を保有

中東マネーが選別する「日本IP企業」の現在地

2026年1月9日、関東財務局に提出された大量保有報告書により、サウジアラビアを拠点とする投資会社 Ayar First Investment Company が、株式会社コーエーテクモホールディングス の株式を 9.30% 保有していることが明らかになった。

保有目的は「純投資」、重要提案行為等は「該当事項なし」。

しかし、市場外取引によって一気に9%超を取得するという手法は、短期的なポートフォリオ調整とは明確に異なる。

本件は、中東系長期資本が日本のIP(知的財産)企業をどう評価しているかを読み解くうえで、象徴的な事例といえる。

9.30%という「踏み込み過ぎないが軽くない数字」

9.30%という保有割合は、形式上は支配株主でも主要株主筆頭でもない。

しかし実務的には、

  • 経営陣が無視できない存在感

  • 他の機関投資家の動向に影響を与え得る水準

  • 将来的な追加取得・関与を想定し得るポジション

に位置する。

特に今回のように、

  • 市場外での一括取得

  • 短期間での高比率到達

という形を取っている点は、「様子見」ではなく、最初から一定の覚悟をもって持分を確保したことを示している。

大量保有報告書の事実整理

提出書類に基づく主な内容は以下の通りである。

  • 報告義務発生日:2025年12月26日

  • 提出日:2026年1月9日

  • 提出者:Ayar First Investment Company

  • 発行体:株式会社コーエーテクモホールディングス

  • 保有株数:31,267,360株

  • 保有割合:9.30%

  • 取得方法:市場外取引

  • 取得対価:0円(グループ企業間で無対価取得

  • 保有目的:純投資

  • 重要提案行為等:該当事項なし

取得資金の内訳には、「グループ企業間において、無対価で株式を取得した」と明記されており、本件が新規投資というより持分の付け替え・集約であることが読み取れる。

アヤル・ファースト・インベストメントとは何者か

アヤル・ファースト・インベストメントは、2017年設立のサウジアラビア系投資会社で、中東の富裕層・政府系資本と近い距離感を持つ長期志向の投資主体とみられている。

その投資スタンスには、以下の特徴がある。

  • 短期売買を前提としない

  • ブランド力・知的財産・コンテンツ価値を重視

  • 地政学リスクや資源価格に依存しない資産への分散

今回の保有も、金融的な値幅取りではなく、長期資産としての位置付けと捉えるのが自然だ。

コーエーテクモHDという投資対象の強度

コーエーテクモHDは、ゲーム・エンターテインメント分野において、

  • 自社IPを多数保有

  • グローバル展開が可能

  • 継続的なキャッシュフローを生みやすい

という特徴を持つ、日本を代表するコンテンツ企業の一角だ。

特に、

  • タイトル単位ではなくIP単位で価値が蓄積される構造

  • ハードや地域に依存しにくい事業モデル

は、長期保有を前提とする海外資本にとって極めて分かりやすい魅力となる。

なぜ「市場外・無対価」で9%超なのか

今回の取得方法は、市場内での買い集めや第三者割当ではなく、

  • 市場外

  • 無対価

  • グループ内移転

という形が取られている。

これは、

  • 株価への影響を極力抑え

  • 市場の需給を歪めず

  • 静かに主要株主の位置を確保する

という、極めて慎重かつ長期志向の手法だ。

中東マネーが日本企業に入る際にしばしば見られる、「表に出過ぎない持ち方」の典型例といえる。

「純投資」という説明の現実的な読み方

保有目的は「純投資」、重要提案行為等は「該当事項なし」。

この記載だけを見れば、経営への関与は想定されていない。

ただし、

  • 9.30%という無視できない比率

  • 市場外での一括取得

  • 無対価での持分集約

を踏まえると、本件は「短期で売らない株主」であることの表明と読む方が妥当だろう。

積極的に口出しはしないが、簡単に手放す前提でもない。そうしたスタンスが透けて見える。

論評

本件は、アクティビズムでも敵対的買収でもない。

むしろ、日本市場において、

  • 中東系資本

  • コンテンツ・IP企業

  • 長期・低回転の大口保有

という組み合わせが、一つの定番になりつつあることを示している。

アヤル・ファースト・インベストメントの 9.30% は、経営への圧力ではない。

それは、「この企業の価値は、時間をかけて育つ」という評価の表明に近い。

コーエーテクモHDが、この長期株主構成をどう活かし、IP価値をどこまで拡張できるのか。

その答えは、日本のコンテンツ企業が世界の長期資本とどう向き合うかを占う試金石となるだろう。

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