
老舗消費財メーカーに向けられた「対話型アクティビスト」の第一歩
2026年1月22日、関東財務局に提出された大量保有報告書により、ケイマン諸島籍の投資会社 Hibiki Path Advisors SPC が、株式会社マンダム の株式を 5.17% 保有していることが明らかになった。
一見すれば、5%をわずかに超える一般的な株式取得に見える。
しかし、保有目的に「純投資」に加えて「経営陣への助言および重要提案行為の可能性」が明示されている点を踏まえると、本件は単なるパッシブ投資ではない。
これは、老舗消費財メーカーに対する「対話を前提としたアクティビスト投資」の初動と位置付けるのが自然だ。
大量保有報告書の事実整理
まず、事実関係を淡々と整理する。
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報告義務発生日:2026年1月15日
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提出日:2026年1月22日
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提出者:ひびき・パース・アドバイザーズ・エスピーシー
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発行体:株式会社マンダム
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保有株数:2,496,700株
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保有割合:5.17%
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取得方法:市場外取引(移管)
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取得資金:0円(現金支出なし)
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保有目的:
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純投資
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状況に応じて経営陣への助言、重要提案行為等を行うこと
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重要提案行為等:行う可能性あり
本件は、新規の市場買付ではなく、既存株式の移管によって5%超に達した点が特徴である。
ひびき・パース・アドバイザーズの正体
問題は「誰が買ったか」である。
ひびき・パース・アドバイザーズSPCは、2025年9月設立の比較的新しい投資ビークルで、SPC(セグリゲーテッド・ポートフォリオ・カンパニー)という形態を用いている。
この形態は、
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投資案件ごとにリスクと資本を切り分けられる
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機動的な取得・提案・売却が可能
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アクティビスト型投資で用いられることが多い
という特徴を持つ。
さらに、本件では保有目的の段階で「重要提案行為」を明示しており、「静かに持ち続けるだけの株主」ではないことが、最初から市場に示されている。
なぜマンダムなのか
次に問われるのは、「なぜこの会社なのか」だ。
マンダムは、「ギャツビー」ブランドに代表される化粧品・日用品メーカーであり、国内外に一定のブランド力と販売基盤を持つ老舗企業である。
一方で、その構造を見ると、
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成熟市場に属し、成長率は限定的
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海外展開の成否が業績を左右しやすい
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ブランド力に比して、市場評価は伸び悩みやすい
といった課題を抱えてきた。
これは、「事業基盤はあるが、資本市場との対話が十分とは言い切れない企業構造」と捉えることができる。
5.17%という取得比率の意味
5.17%という数字は偶然ではない。
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大量保有報告書の提出義務が生じる明確なライン
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経営陣に対して正式に意見を述べられる立場
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しかし、敵対関係を生まない水準
この比率は、「まず対話を始めるための最低限の発言権」として極めて合理的だ。
特にマンダムのような、株主構成が比較的分散している企業においては、5%超の外部株主は 無視できない存在 となる。
経営陣・市場へのメッセージ
大量保有報告書は、単なる法定開示ではない。
それは、株主から経営陣への公開書簡でもある。
本件が発するメッセージは明確だ。
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現在の事業戦略は、資本市場に十分説明されているか
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ブランド資産は、株主価値にどう結びついているか
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中長期の成長ストーリーは描けているか
ひびき・パースの5.17%は、敵意ではなく、「説明と対話を求める圧力」として作用する可能性が高い。
企業・資本構造の将来余地
現時点でマンダムには、いくつかの将来余地が残されている。
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海外事業の再構築・選択と集中
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ブランドポートフォリオの価値可視化
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資本効率・株主還元方針の再整理
重要なのは、ひびき・パースが「何かが起きてから入った」のではなく、「変化を促せる段階で入った」という点だ。
今後想定されるシナリオ
現時点で断定はできないが、以下の展開は想定される。
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経営陣との建設的対話
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IR・資本政策に関する意見表明
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状況次第では、重要提案行為への移行
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あるいは、一定期間後の持分調整
少なくとも本件は、「何も起きない大量保有」ではない。
論評
消費財メーカーに突きつけられる「資本市場との対話」
本件は、マンダム一社の問題にとどまらない。
日本の老舗消費財メーカーが共通して抱える、
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ブランド力と株主価値の乖離
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成熟市場における成長ストーリーの難しさ
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資本市場との距離感
といった課題を象徴している。
ひびき・パース・アドバイザーズの 5.17% は、経営権を奪うための数字ではない。
それは、「この会社の価値を、資本市場の言葉で説明できているか」という問いを突きつけるための数字である。
マンダムの経営陣が、この静かなシグナルをどう受け止めるのか。
その対応次第で、同社の将来評価は大きく変わる可能性がある。

