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論評RONPYOIndependent Research
OPEN FILE大量保有報告論評編集部公開 2026.06.01更新 2026.06.13

アドバンテッジ系AP PS IV、三菱鉛筆に7.55%変更報告

アドバンテッジパートナーズ系SPCが三菱鉛筆に対し、第1回新株予約権と転換社債型新株予約権付社債を組み合わせた計100.2億円の大型資本投下を実行し、7.55%の変更報告書を提出した。1年間の転換・行使禁止を含む27条項の構造は、形式上の「純投資」と実質上の戦略的関与という二層構造として機能していると見るのが自然だ。

株券等保有割合
7.55%
発行済+潜在合計64,944,392株に対して
保有株券等総数(潜在)
4,901,800株
新株予約権816,900+転換社債4,084,900
報告種別
変更報告書
大量保有報告書に基づく変更・特例対象
保有目的(記載ベース)
純投資
重要提案行為等:該当なし

出典:AP PS IV Investment, Inc. 提出の変更報告書(令和8年5月26日提出、義務発生日令和8年5月19日)

第1章

サマリー

AP PS IV Investment, Inc. が令和8年5月26日付で提出した変更報告書の基本事実を整理する。保有目的は報告書の記載ベースで「純投資」とされているが、引受契約に含まれる事前同意条項の存在は後章で詳述する。

発行体
三菱鉛筆株式会社(東京証券取引所プライム市場・証券コード7976)
提出者
AP PS IV Investment, Inc.(英領ケイマン諸島、設立令和7年10月10日)
連絡先
株式会社アドバンテッジパートナーズ
報告義務発生日
令和8年5月19日
提出日
令和8年5月26日
書類種別
変更報告書(大量保有報告書に基づく変更)
発行済株式総数
60,042,592株(令和8年3月23日現在)
保有株券等総数
4,901,800株(全て潜在株式・現物株式なし)
株券等保有割合
7.55%(発行済60,042,592株+潜在4,901,800株の合計64,944,392株に対して)
保有目的(記載ベース)
純投資
重要提案行為等
該当なし
取得資金合計
10,024,786千円(約100.2億円)
取得資金内訳
AP PS S2, L.P.への出資金4,024,786千円(約40.2億円)+株式会社三井住友銀行(大森蒲田法人営業部)からの借入6,000,000千円(60億円)
担保
三菱鉛筆第1回無担保転換社債型新株予約権付社債を三井住友銀行への担保として提供(額面6,122百万円相当)
年月日 種類 数量 割合 取得区分 単価
令和8年5月19日 第1回新株予約権 816,900株相当 1.26% 取得(第三者割当) 1個100円
令和8年5月19日 第1回無担保転換社債型新株予約権付社債 4,084,900株相当 6.29% 取得(第三者割当) 1個204,570,794.40円(計2個)

出典:AP PS IV Investment, Inc. 変更報告書(令和8年5月26日提出)記載の直近60日間の取得状況

第2章

【提出者】とは

大量保有者として登録されているAP PS IV Investment, Inc. は、英領ケイマン諸島に令和7年10月10日に設立されたSPC(特別目的会社)である。実質的な運用主体は1997年設立の株式会社アドバンテッジパートナーズ(東京都港区)であり、同社は日本を代表するプライベートエクイティ(PE)ファンドとして知られる。

ファンドの資金構造としては、AP PS IV Investment, Inc. がAP PS S2, L.P. というファンドビークルのジェネラルパートナーとして機能するSPCという構成が採られている。今回の取得資金のうち約40.2億円はLP出資(AP PS S2, L.P. への出資金)、残る60億円は三井住友銀行大森蒲田法人営業部からのローンファイナンスによって調達されている。

アドバンテッジパートナーズは対象企業への経営関与・バリューアップを通じたリターン実現を本業とするPEファンドである。本件では保有目的が「純投資」と記載されているが、引受契約に含まれる事前同意条項・優先引受権といった包括的な条項群は、単なるパッシブ保有にとどまらない戦略的関与を企図した設計と読むことができる。報告書上の「純投資」という記載は形式的な区分であることに留意が必要と見るのが自然だ。

出典:AP PS IV Investment, Inc. 変更報告書(令和8年5月26日提出)提出者欄および取得資金欄

第3章

取得の構造

本件取得は令和8年5月19日付の第三者割当によって一括実行されている。現物株式は一株も保有せず、全保有4,901,800株が潜在株式(新株予約権および転換社債型新株予約権付社債)という構成が特徴的だ。

発行体の三菱鉛筆は2025年12月期に売上高898億円(前期比+1.1%)を計上する一方、欧州での流通在庫調整(ポスカ等の一時的需要減退)を主因として営業利益97億円(前期比▲20.5%)、経常利益100億円(前期比▲22.6%)という増収・大幅減益の局面にあった。同社は2036年12月期に売上高1,500億円(2025年比+67%)という長期目標を掲げており、その実現のためにアドバンテッジパートナーズとの事業提携・資本調達を選択した。日経報道によれば、調達資金のうち約100億円は自己株取得によりSMBC借入金の返済に充当し、残余を海外筆記具事業の成長投資・サプライチェーン最適化に用いる計画とされている。

内容 詳細
① 転換・行使禁止期間 2026年5月19日〜2027年5月18日(1年間) 完全禁止。エンゲージメント先行期間として機能
② 第2フェーズ制限 2027年5月19日〜2028年5月18日 全4,901,800株の3分の1(約163万株)まで累積転換・行使可能
③ 第3フェーズ制限 2028年5月19日〜2029年5月18日 全4,901,800株の3分の2(約327万株)まで累積可能
④ 事前同意条項 重要事実該当時に限定 子会社の処分・M&A・定款等重要変更・特別決議事項・1%未満となるまでの株式等発行について、アドバンテッジの事前書面同意が必要。金融商品取引法第166条第1項に定める「重要事実」該当に限定。目的は「出資金額保全のための予防的措置」と明記
⑤ 優先引受権 保有割合1%未満となるまでの間 三菱鉛筆が第三者に株式等を発行する際、アドバンテッジへ先に引受意向確認を行う義務。希薄化防止機能として設計
⑥ 担保契約 転換社債を三井住友銀行に担保提供 額面6,122百万円相当。転換・行使の際にSMBCとの調整が必要となる可能性

出典:AP PS IV Investment, Inc. 変更報告書(令和8年5月26日提出)引受契約の主要条項欄、および発行体2025年12月期決算資料

第4章

論点の整理

本件変更報告書の構造を踏まえ、継続監視すべき論点を3点に整理する。

論点 内容 着目ポイント
論点① 「純投資」記載と事前同意条項の乖離 保有目的は報告書上「純投資」と記載されているが、子会社処分・M&A等への事前同意権・優先引受権という包括的な条項群はPEファンドの実質的関与を示唆する 今後の変更報告書において保有目的が「純投資以外(重要提案行為等)」に変更されるかどうか。経営関与の範囲が引受契約の条項を超えて拡大するかどうか
論点② 1年エンゲージメント期間の成果 2027年5月以降の転換・行使開始前の1年間が海外事業改革の実質的な実行期間となる。アドバンテッジの海外ネットワーク・データ分析力が三菱鉛筆の欧州在庫調整後の成長にどう寄与するかが問われる 2026年12月期・2027年12月期の海外売上の回復速度、および三菱鉛筆の中期経営計画における進捗開示
論点③ SMBC担保契約と転換行使のタイミング 転換社債(額面6,122百万円相当)が三井住友銀行への担保として提供されており、アドバンテッジが転換社債を転換する際にはSMBCとの調整が必要となる可能性がある。60億円の借入返済スケジュールが転換タイミングに影響する構造 SMBC借入の返済期限・条件の開示動向、および転換・行使開始可能となる2027年5月以降の動向

出典:AP PS IV Investment, Inc. 変更報告書(令和8年5月26日提出)各条項および日経報道(引用は旧記事記載の情報に基づく)

アドバンテッジパートナーズが投下した計100.2億円という資本と、27条項に及ぶ引受契約の構造は、三菱鉛筆の2036年売上1,500億円目標への伴走を前提としたものと読むことができる。1年間の転換・行使禁止期間中に海外事業改革がどこまで具体化するかが、この取引の本質的価値を測る最初の指標となると見るのが自然だ。

論点 → 監視

この保有を、どう追うか

変更報告・追加取得の有無を継続して記録する。保有目的に動きがあれば、企業カルテに反映する。

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