株式会社ユーグレナ、有価証券報告書レビュー

「Sustainability First」の旗を掲げる独立系バイオベンチャーの現在地 (第20期 有価証券報告書|2024年12月期)


はじめに

2025年3月28日に提出された株式会社ユーグレナ(証券コード:2931)の第20期有価証券報告書は、創業20年目の節目における営業黒字化とサステナビリティ経営の深化という2つのキーワードで読み解くことができる。

同社は、微細藻類「ユーグレナ(ミドリムシ)」の大量培養を基盤に、ヘルスケア/バイオ燃料/サステナブル農業など多角的な展開を進めており、本年度は初の営業黒字(3億円)を計上。売上は過去最高の476億円を記録した。

その一方で、依然として最終損失(△6.5億円)は残っており、いかに継続的な利益構造を確立していくかが最大の課題といえる。


1. 業績サマリーと財務の状況

  • 売上高:476.1億円(前年比+2.4%)
  • 営業利益:3億円(前年:△14.6億円)
  • 経常利益:4.3億円(前年:△14.2億円)
  • 純利益:△6.5億円(前年:△26.5億円)
  • 調整後EBITDA:43.3億円(前年比+94.8%)
  • 営業CF:+26.4億円(前年:+6.6億円)
  • 自己資本比率:43.3%(前年:33.9%)
  • 現金残高:137.3億円(前年:156.5億円)

2. 事業別概況と成長ドライバー

● ヘルスケア事業

  • サティス製薬などのM&Aを通じたOEM・原料・海外売上の拡大が牽引
  • パラミロン(β-1,3-グルカン)など独自素材による差別化に注力
  • 自社EC、卸、OEMを通じた“D2C+素材メーカー”型モデルが強化

● バイオ燃料事業

  • 横浜の実証プラントを2024年1月に停止し、商業化フェーズへ移行
  • マレーシアでの商業プラント(出資5%→15%予定)は2028年稼働見込み
  • SAF市場拡大と政策支援が成否の鍵

● その他事業

  • 肥料・飼料などのアグリテック分野で研究を推進
  • 遺伝子解析(ジーンクエスト)、バングラデシュでの社会貢献事業も継続

3. 中期戦略──「5F戦略」と“両利き経営”

ユーグレナは微細藻類の用途展開を「バイオマスの5F(Food, Fiber, Feed, Fertilizer, Fuel)」として定義。

これを実行に移すために

  • 既存のヘルスケア事業を“深化”させる
  • 燃料・農業・素材領域で“探索”を続ける
  • 2030年に向けて、合計1,000億円以上の売上目標と明確なEBITDAターゲットを設定

研究開発・M&A・OEM体制の拡充を通じ、「素材と事業の両輪」で勝てる構造を模索中である。


4. サステナビリティと人的資本経営

  • Scope1+2 CO2排出量:前年比8.3%減(4,484トン)
  • 2030年までに自社グループでのカーボンニュートラル達成を目指す
  • 女性管理職比率22%/中途採用率50%超/育休取得率:男性33%、女性100%
  • サステナビリティ委員会を中心に、ESG体制を全社的に構築

理念「Sustainability First」に沿った定量的な成果も着実に現れつつある。


5. 投資家としての視点──“ストーリー”から“数字”へ

ユーグレナの株式は、「ESGテーマ」「バイオ燃料」「微細藻類」などの社会的意義に支えられてきた。

今後の焦点は、以下2点に絞られる。

  1. マレーシア商業プラントの商業稼働と収益化のタイミング
  2. ヘルスケア事業における営業利益率の改善(15%以上が目標)

黒字定着の兆しは見えてきた。次は「持続可能な利益成長」の実現が評価の分かれ目になる。


6. 深掘り:構造から見える“企業としての本質”

評価項目 強み 留意点
サステナビリティ ESG旗手としてのプレゼンス/TCFD・SBT対応 “理念先行型”というイメージを払拭できるか
ヘルスケア事業 ブランド+原料製造の垂直統合/OEM収益化 広告費依存、競争激化、市場飽和リスク
バイオ燃料 SAF市場+政策連携/他にない培養技術基盤 出資比率の低さ、商業化まで時間を要する
財務・資本政策 調整後EBITDA黒字/自己資本比率43% 最終損失の解消、ROE創出への道筋

企業としてのコアは、「素材 × 技術 × ストーリー × 資金」の掛け合わせにある。


論評社としての視点

ユーグレナは、かつての“ミドリムシベンチャー”の枠を明確に超えつつある。

  • 素材の事業化(OEM、直販、原料)
  • 燃料の実証から商業段階へ
  • サステナブル経営の指標化と外部発信

これらが揃い始めた今、求められるのは「持続可能な収益構造をいかに築くか」という次の問いへの答えだ。

黒字定着+外部資本との連携強化+素材ブランドのグローバル展開。

──この3点が、ユーグレナの「次の10年」を占う軸となる。

おすすめの記事