フジ・メディアHDに旧村上ファンド系が再び攻勢

共同保有比率11.81%、株主提案フェーズへ突入

はじめに

2025年4月10日、株式会社レノを中心とする投資家4者が、フジ・メディア・ホールディングス(証券コード:4676)株の共同保有比率を11.81%まで引き上げたことを、金融商品取引法に基づく変更報告書の提出により明らかにした。

これは株主提案権を行使可能とする10%ラインを明確に上回る水準であり、旧村上ファンド系による経営関与が、静かな対話から“実動フェーズ”へと移行した可能性を示唆している。


1. 共同保有の構成と資本の実態

保有者名 保有株数 保有割合
株式会社レノ 100株 0.00%
野村絢(村上世彰氏の長女) 20,984,800株 8.96%
エスグラントコーポレーション 3,446,200株 1.47%
シティインデックスファースト 3,232,500株 1.38%
合計 27,663,600株 11.81%

資金調達には信用取引および借入が活用されており、担保提供された株式数は5,557,600株に及ぶ。レバレッジを伴う“本気の戦略投資”であることが明確であり、短期の値ざや狙いではない“関与型ポジション”としての性格を強めている。


2. フジ・メディアHDを狙う理由──旧村上ファンド系の視座

フジ・メディアHDは、フジテレビ、BSフジ、ニッポン放送といった放送・メディア資産に加え、台場エリアの大規模不動産、金融資産、持分法適用会社(ポニーキャニオン、イマジカGなど)を抱える“資産過多型コングロマリット”である。

  • 自己資本比率:76%前後
  • PBR:0.7倍前後(2025年4月時点)
  • 純資産2兆円超に対し、利益成長は停滞

過去に旧村上ファンドが狙ってきた東京スタイル、東京機械製作所、アコーディアなどと同様、「資本効率の低い、資産豊富な企業」という典型的ターゲットに該当する。

巨大不動産、未活用資産、停滞する広告事業──フジHDには“変革余地のかたまり”としての構造的魅力がある。


3. 今後のシナリオ──株主提案と議決権行使の焦点

保有比率11.81%という数字は、株主提案権(会社法303条)を有するだけでなく、実際の議決権行使を通じた「経営刷新」の可能性を現実のものとする。

今後想定されるアクション

  • 取締役会に対する構成見直し要求(社外取締役比率、独立性)
  • 自己株取得・特別配当・純資産活用策の提案
  • 連結子会社・資産の切り出し(持分法会社含む)に関する提言

過去の投資家行動を鑑みれば、レノや野村氏らがいきなり敵対的行動を取る可能性は低く、まずは対話型アクティビズムとして経営陣との非公開協議に入ると見られる。ただし、対話が不調に終われば、株主総会での提案提出、メディア報道を通じた外圧の活用へと移行する可能性もある。


4. 外部との連携と“アクティビスト連鎖”の懸念

株主構成を見ると、フジHDには外国人株主や国内機関投資家も一定程度存在しており、今後の動向次第では以下のようなリスクも浮上する:

  • 他アクティビスト(エフィッシモ、オアシス、エリオットなど)との共同行動
  • 議決権行使助言会社(ISS、Glass Lewis)の賛同獲得
  • 株主総会での経営陣退任要求、提案採択

単独での圧力にとどまらず、“連携型アクティビズム”へと発展する構図が見えてきた。


5. フジHD側の防衛シナリオと注視点

企業側のIR・ガバナンス対応も、2025年度において注視すべき焦点である。

  • 自社による議決権確保(持株会社再編や子会社株式買い増し)
  • 株主構成の見直し(信託活用、政策保有比率調整)
  • スチュワードシップコードに基づく対話ガイドラインの策定
  • 株主総会議案の事前準備・IRイベントによる株主関係強化

現時点ではフジHD側からの明確なコメント・反応は確認されていないが、アクティビズムの本格化に対し、対応次第で企業評価が大きく分かれる。


6. 静かな再編の序章──企業価値と株主主権の交差点で

旧村上ファンド系の攻勢がフジ・メディアHDに対して再び現実のものとなった今回の変更報告は、静かな“資本再編”の胎動である。

日本を代表するメディア・不動産コングロマリットの行方──その変革の主導権は、今や株主の手に握られている。

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