
【ガバナンス変革を見据える5%出資】
2025年6月5日、米国ネバダ州を本拠とするDalton Investments Inc.(以下、ダルトン)は、東証プライム上場のトーセイ株式会社(証券コード:8923)の株式2,434,800株(保有割合5.00%)を取得したことを大量保有報告書で明らかにした。
ダルトンは単なる長期保有目的ではなく、発行者に対して「資本政策の変更」や「取締役構成への提案」も含めた行動を明言しており、本件は“予告型エンゲージメント”の色合いを帯びた出資となっている。
Dalton Investmentsとは?
米系独立アクティブファンドの“骨太”戦略
ダルトンは2019年設立、ラスベガスに本社を構える独立系資産運用会社であり、代表はJames B. Rosenwald III氏。
日本市場においては、昭和真空やヨネックスなどへのエンゲージメントで知られ、投資先企業との対話によって株主価値の向上を促す“ガバナンス型アクティビスト”として知られている。
報告書には明記されていないが、過去には取締役の選任提案や増配要求、企業分割提案など、実質的な経営構造改革への働きかけを行ってきた経緯があり、今回のトーセイに対する出資もその文脈で捉えるべきであろう。
トーセイとは?
中堅不動産デベロッパーからREIT運用まで
トーセイは東京を中心に不動産開発・仲介・賃貸・リノベーションを手がける中堅デベロッパーであり、傘下には私募REIT・不動産証券化商品の運用会社も持つ“複合型不動産事業体”である。
また、外部投資家との共同出資によるファンド設計や、ESG対応型物件の開発など、近年は金融型ストラクチャーと環境意識の融合を強めており、収益性の安定と資本効率の両立を図っている点が評価される。
なぜ今、ダルトンが動いたのか?
4つの視点
- PBR1倍割れの継続と資本効率問題:2025年時点でのPBRは0.8倍前後。自己株取得・配当政策に対するアクション余地は大きい。
- ROEの改善余地とガバナンススコアの平凡さ:収益に比してガバナンス開示や社外取締役構成が平板。改善余地が明白。
- REIT・不動産AM領域の再編トリガーとしての布石:ダルトンは過去に複数のREIT運用企業やアセットマネジメント会社にも関与しており、本件もその一環として中長期的再編構想があるとみられる。
- 株式分散状況と支配株主不在という地合い:トーセイは特定の支配株主を持たず、外部株主からの資本政策提案が入りやすい構造にある。
米系資本が見つめる、日本型資本政策の“余白”
Dalton Investmentsによる5.00%の出資は、単なる財務ポジションではなく「企業統治に対する提起」である。日本企業のPBR・ROE・IR方針に対して、海外ファンドが“見過ごせない改善余地”を感じ始めている証左でもある。
今後、トーセイがどのような対応を見せるか──それは同社だけでなく、日本の中堅上場企業全体にとっての試金石ともなり得る。