日東紡績 決算分析

繊維からグラスファイバー、そして電子材料と医療へ

企業概要

1898年創業の老舗・日東紡績は、戦後日本の繊維業と共に歩み、やがてガラス繊維=グラスファイバーという特殊素材の領域で独自進化を遂げた企業だ。

現在は以下の6事業体を展開している。

  • 電子材料事業(低誘電・低熱膨張ガラス)

  • メディカル事業(体外診断薬、抗血清)

  • 複合材事業(FRP/FRTP向けグラスファイバー)

  • 資材・ケミカル事業(産業資材、機能性ポリマー等)

  • 断熱材事業(グラスウール)

  • その他事業(商社・機械エンジニアリング)

2023年には創立100周年を迎え、次の100年を見据える長期戦略「Big VISION 2030」を策定。電子材料とメディカルを2大収益の柱としながら、環境・エネルギー・健康領域でのグローバル・ニッチNo.1を目指している。

財務サマリー

指標 2025年3月期実績 前年比
売上高 1,090億円 +16.9%
営業利益 164億円 +96.1%
経常利益 176億円 +80.1%
純利益 128億円 +76.0%
総資産 2,231億円 +10,993百万円
自己資本比率 58.1% +2.4pt
ROE 10.4% +3.8pt

キャッシュフロー分析:本業での潤沢な創出力が明確に

区分 金額(百万円) 主な要因
営業CF +19,121 利益+減価償却の寄与大
投資CF ▲11,418 設備投資+研究開発加速
財務CF ▲3,277 借入金返済+配当支払い
現金等残高 28,387 前年比+21%の水準に

特筆すべきは、フリーキャッシュフローが約78億円と潤沢で、借入返済+配当支払い後も現預金が増加した点

これは、電子材料・メディカル両事業の高付加価値化が、本格的な収益源となっている証左である。

電子材料事業

“スペシャルガラス”がAI時代の基幹素材へ

売上:409億円(+36.9%)
営業利益:138.8億円(+157.9%)

  • AIサーバーや半導体パッケージに使われる低誘電・低熱膨張のガラスクロス

  • 「NEZ™」「NER®」「Vlex™」など特性別に細分化された高機能製品群

  • 台湾・米国における子会社群を通じたグローバル製造・販売体制の強化

本事業が全営業利益の84%を占めるに至っており、日東紡の本質的価値はもはや電子ガラス企業と断じてよい。なお、セグメント資産は1,029億円に達し、全体の45%超を占める。


メディカル事業

高齢化+予防医療ニーズに乗る体外診断薬

売上:136億円(+6.5%)
営業利益:23.8億円(▲0.4%)

  • 100項目超の検査薬ラインアップ、国内では炎症マーカー・骨粗鬆症分野でシェア確保

  • 米国子会社にて抗血清を製造し、日本で最終加工=グローバル製造の強み

なお、研究開発費は61.6億円と全社比20%を占め、次世代医療(高感度ラテックス・遺伝子検査)対応の製品化が進行中

ESGと脱炭素

CO2削減22.9%、だがScope3は未言及

  • Scope1+2:2013年比▲22.9%(目標は2030年までに▲30%)

  • Scope3(間接排出)については言及なし

  • 富久山・福島拠点でISCC PLUS認証を取得し、マスバランス型製品展開が可能に

オンサイトPPA型太陽光導入、燃焼CO2ゼロ燃料の実証試験開始など、先進的な取組みもみられるが、ESG投資家の評価にはScope3の定量的開示が不可欠

資本政策・研究開発・経営体制

次の柱をどこに立てるか

  • 配当:1株106円(前期比+51円)

  • 自己株式取得は実施なし(保有率3.03%に留まる)

  • 研究開発費合計:29.8億円(売上比2.7%)

  • 保有特許:国内外で737件(うち新規出願34件)

2024年4月より「5事業本部制」へ移行し、各事業にPL責任と新事業探索機能を付与。電子材料・メディカル以外の「第3の柱」創出が課題となっている。

日東紡績は“素材テック企業”に進化した

問われるのは「脱ニッチ」への覚悟

100年企業としての伝統を持ちながら、AI時代の情報インフラと予防医療という2大成長市場を担う製品を有する日東紡績は、素材テック企業へと完全に衣替えを果たしつつある。

しかし、依然として以下の構造的課題が残る。

  • 電子材料依存度が高すぎる(利益偏重)

  • Scope3・脱炭素戦略の開示不足

  • 医薬・複合材・断熱材など“非主力領域”の再定義が曖昧

  • 中長期的な海外需要変動へのリスク耐性が弱い

ガラスの中に未来を写し出すこの企業が、どのように社会実装を進めていくか──日東紡の真価はこれからが問われる。

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